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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十一話 馬堂家の人々
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の未婚の嫡男、その手の女使用人にどう思われているかを自覚した上で私をからかっている。この方なりの周囲の気を削ぐ防衛策なのだろうが性根が捻じ曲がった発想だと思う――婚約者がいるのだからさっさと身を固めれば済む話なのだし。

「左様ですか。ありがとう御座います。朝食まで後小半刻程です」
露骨に溜息をついて事務的な口調で要件を告げる
「柚木は慣れていて詰まらないな。分かった、分かったよ。また後で」
何処か嬉しそうな言葉を背に部屋を出る。
「はい、それでは失礼します」

「あ、柚木さん、もう大丈夫ですか?若殿様から言伝を預かったのですが」
柚木が部屋を出ると石光が駆け寄ってきた。
「大丈夫よ――というよりも、別に私が居るからって気を回す必要はないわよ
変な噂も立たないしその方が助かるくらいだわ」
「はぁ、そんなものなんですか?」
首をひねる石光に柚木はふんす、と胸を反らす。
「そんなものよ。随分と思ってたのと違うみたいね?」
控えめなようでいて存外に好奇心が強いらしい後輩に水を向ける
「あぁ、その、確かに瓦版に書かれていた記事とは随分違いますね。
思ったより普通でびっくりしました、将家の方ってもっとこう、固い御方だと」
 そういって恥ずかしそうに頬を掻く青年に柚木はクスクスと笑う。
「軍服を着てない時は、人間そんなものよ。
それで言伝は良いの?」

「あ!そうでした。
若殿様と昨日から手紙が沢山届いているから後で――お越しいただきたい、とおっしゃっていました」
――なぜここでいうのだろう、と柚木が疑問に思う間もなく背後から声がする。
「あぁ、分かったよ。ご苦労さん」


「わひゃあ!!」
 飛び出そうになった心臓を抑えながら後ろをむくとそこには誰も居ない。

「さてさて、二人とも、辺里はもう知っているが育預殿が正午前にいらっしゃるから準備を宜しく。
――お、宮川も健在そうでなによりだ」

「豊久様!お早うございます、若殿様が探していらっしゃいましたよ?」
柚木と同時期に雇われた宮川敦子が微笑を浮かべて小走りに駆けよってくる。
柚木とは違い髪を短く切っており、その為かどことなく活発そうな印象を与える。
「あぁ、今さっき聞いたところだよ、朝餉を済ませたらすぐに向かうと伝えてくれ」

「はい、かしこまりました」
「うん、宜しく頼むよ。
ほら、二人も、もういいから仕事に戻りな」
一礼して、忙しそうに小走りで離れてゆく使用人たちを豊久は笑みを浮かべて見送る。
「――故郷(ホーム)、か」
無意識の呟きは誰にも聞き届けられることなく、宙に消えた。


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