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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十一話 馬堂家の人々
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れに射撃速度の向上というのは非常に興味深いですね、限度が現状八十回、それがどの程度枷になるか、ただでさえ頭が痛いであろう、弾薬消費量の問題を抱えている現状で生産が追いつくのか等々の問題がありそうですが」

「八十発、銃兵にもたせる弾数の上限を基準とするか、妥当な数だろう。」
 豊長が相槌を打つ。それを打ち尽くしたら後退せざるを得ないのが常識である。
「もっとも、採用されてもすぐには普及できないだろうな」
 豊守が短銃から目を離しながら呟いた。

「何故ですか?」

「お前が今さっき言ったことに加えて予算の問題がある。施条銃が何故普及しないのかを忘れたか?
臼砲の方はまだ安価だからまだ使える。玉薬も使いまわせるから導入も安く済む。
だがその新式銃は、あれだけ複雑な構造ならば値段が嵩むのが必定だ。戦場での有効性の実証が無いと、いやあっても無い袖は振れない。後備役の動員だけでも予算が不足しているのが現状だ」
 豊守が疲れた様に座り込む。
「――むろん、試験運用の結果と戦局次第では転換を進めねばならないだろう。
その場合によっては皇債の発行も辞さないだろうが――その頃の戦況がどうなっているか」
 その声はあまりに苦かった。

「どうにか持ち堪えさせましょう、北領のようにはいかせない、その為の陸軍でしょう?」

「そうだな、その旗印の一つに使われる奴も目の前にいることだしな」
 そういって豊長は頬を震わせる。
「――その不吉な笑みは止めてくださいよ。――それで、私はどうなるのですか?」

「あぁ、それは、明後日のお愉しみだ」
 父が珍しく愉しげに言う

「――何かあるのですか?」
 オレ、チョットクライ、キュウカ、タノシミタイ

「明後日、陸軍軍監本部に顔を出さなくてはならんのだ。その時に折よく若殿も軍監本部に用事があるそうでな、お前にも同行してもらう、昔の同僚達にも挨拶してこい。」
 ――軍監本部か、久しぶりだ。

「そこで若殿様と話すのですか?」

 ――若殿と会うのも年始の挨拶以来だ。新城の事もあるし、何らかの形で会いたかったのだろう。本来ならば、普通に呼びつければ良いのだろうが――俺も厄介な立場にあるという事か。

「そういう事だ。くれぐれも粗相をするなよ。」
 祖父が生真面目な顔に戻った。
 ――いつもの厳格な祖父だ。時には幼年学校の教官よりも手厳しく叱られた。
頭では俺の為だと分かっていてもやはり苦手だ。

「まぁまぁ父上。豊久だってもう一流の将校なのですから」
父が口を挟むと素直な褒め言葉が面映いのか豊久はぽりぽりと頬を掻く。
「そんな父上――」

「何せ親王殿下とも書簡のやり取りを行った仲なのですから。――なぁ豊久」
一転して人の悪い笑みを浮かべる。
「何だと
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