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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十一話 馬堂家の人々
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皇紀五百六十八年 四月二十八日 午前第十二刻
馬堂家上屋敷前  馬堂家嫡男 馬堂豊久


「さて、我が屋敷に英雄の凱旋だ」
豊長が普段の重々しい態度とは真逆の芝居がかった仕種で屋敷を背に手を広げる。
その背後で家令頭の辺里が慇懃に礼をする様は阿吽の呼吸というべきか妙に絵になっている。
「豊久様、お久しゅうございます。さあ、皆様、外套を」
 相変わらず家令の鏡と言うほかが無い振る舞いだ。
 祖父と同年代の筈だが白髪の他には年齢を感じさせるモノは無い
「ただいま、辺里。お前も健勝そうで何よりだ」
 曽祖父の代からこの家に仕えている生え抜きらしく、誠実さと熟練した慇懃な振る舞いは周囲から厚い信頼を勝ち得ている。
「豊久様、新城直衛様から明日の午前中に伺いたいと連絡が入っております。」
「あぁ、式典の間は話せなかったからな。分かった。宜しく伝えてくれ」
 そう言うと恭しく頭を下げて使者の用意へと下がった。
「それでは我らが尊崇すべき辺里とも再会できたし、中に入ろうか。
今日は豊久の生還と二人の昇進祝いだ」
二人?
 ――父の階級章が目についた、真新しい准将の階級章になっている。
「父上、昇進なさったのですか。後2.3年はかかるものと思っていましたが」
 笹嶋中佐の言った通り、家名が上がったからか。
「お前が後衛戦闘を任じられた後に駒城の方々が後押ししてくれた。まぁお前のお零れだ」
 豊守は肩をすくめてそう云った。
 喫煙室に到着し、馴染み深い安楽椅子に身を預け、無意識に豊久は感嘆の溜息を漏らした。
――やはり我が家は寛げる。
「准将閣下、ですか。そうなると駒州軍兵站部か、軍監本部の兵站課ですか?」

「いや、其方は今の者を引き継がせるそうだ。私は兵部大臣官房に配属された」
豊守は顎を撫でる。
「魔窟送りですね」
豊久が苦笑いする。
 これは単なる憎まれ口ではない。兵部大臣官房は長きにわたる平時において産み出された青年将校たちの不満(出世の停滞)を緩和する為に肥大化した軍官僚組織を統括するためにかつての大臣官房副官部から大幅に膨張している。
官房長は慣例から文官が任命されるが、官房副長として陸・水軍中将がそれぞれ一名ずつ、さらに法務局から中将相当の文官(高等一等官)が首席監察官兼監察官室長を務める監察官室が官房長直属として設置されている。
そして、官房三課とよばれる総務課、主計課、人務課の三課がおかれ、基本的に陸・水・文から一名ずつ課長職に任じられることがこの二十数年で築かれた慣例である。――本来ならば各部局の統廃合を行い、陸水の二省体制への移行が提案されていたのだが水軍の衆民閥の増大を恐れた五将家の強力な反対によって頓挫している。
「総務課理事官だ――確かに厳しいものがあるよ、引継ぎだけで大わらわだ
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