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ピンクのモーツァルト
第二章

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「あの色はいいですね」
「ああ、そういうことか」
「いきなり言い出したから何かと思ったら」
「こうしたことは君の常でも」
「色の話だったか」
「そうだったか」
「そうです、僕はあの色が最近気に入っていて」
 それでというのだ。
「ハンカチとかはピンク色にしています」
「その色は確か」
 知人の一人が笑って話すモーツァルトに話した。
「ロシアの女帝の」
「エリザベータ女帝ですね」
「あの人が好きでね」
「ロシアでは女帝の色でしたね」
「あの人が在位の間は」
「それで他の誰も使えなかった」
 モーツァルトはやや派手な身振りを入れつつ話した。
「そうでしたね」
「そんな色だったね」
「若しあの国でピンク色を用いれば」
 その色の服なりハンカチなりを身に着けたり持っていたりすればというのだ。
「大変でしたね」
「あの人は死刑を嫌っていたけれど」
 もっと言えば死刑廃止を決めたことを自慢していた。
「このことでは別でね」
「死刑もありましたね」
「そこまでだったよ」
「他にも学問やプロイセン王のことも」
「プロイセンは我が国の宿敵にしても」 
 女帝マリア=テレジアが最も嫌っている人物でもある、オーストリアとプロイセンは仇敵同士なのだ。
「それでも」
「そのことは僕も知っています」
 政治に興味がないモーツァルトでもだ。
「オーストリアにいますから」
「そうだね、君も」
「そしてロシアのことも」
「女帝の話は有名だからね」
「それで知っていますが」 
 それでもとだ、モーツァルトは知人に話した。
「この国はオーストリアです」
「ロシアではないね」
「昔の」
「だからだね」
「はい、問題ないですね」
 ピンク色を用いてもというのだ。
「左様ですね」
「皇太后陛下はそうした方ではないからね」
 マリア=テレジアはというのだ。
「あの方は」
「先帝陛下が崩御されて」
「それからは喪服だからね」
「非常に質素な生活になられて」
「もう結構経つからね」
「そもそもあの方は」
 モーツァルトからも話した。
「色で誰かを処罰される」
「そうした方ではないよ」
「左様ですね」
「だからだね」
「僕は最近です」 
 知人達に笑って話した。
「ピンク色に凝っています」
「そうなんだね」
「非常に」
 こうも言うのだった。
「そうしています」
「そうなのか」
「君のその趣味はわかったよ」
「しかしピンク色は」
 この色自体についてだ、知人達は彼に話した。
「ちょっとね」
「男が使う色か」
「そのことがどうもね」
「思うのだがね」
「そんな法律はない筈ですよ」
 モーツァルトはどうかという顔になった知人達に笑って答えた。
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