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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第二十話 季節は変わる
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た全てがこの国にある。ぼんやりとあの時の事を反芻しながら部下達に船を降りる準備をさせに船室へと降りた。
 その数ヶ月ぶりの軽快な足取りはとても正直で快活なものであった。



 帰還した第十一大隊の最後の敗残兵達を出迎えてくれたのは少し意外な面子だった。
「独立捜索剣虎兵第十一大隊!総員、大隊長殿以下四十三名に!捧げ、銃!」
 猪口曹長が発する裂帛の号令に三百名近い兵が俺達に見事な礼を見せてくれる。
帰還者達も答礼をし、帰還の式典へと向かう。

 守原大将が何やら欠片も思っていない事を演説し、兵の処遇について軍監本部から来た退役間際の老少将が十分な路銀と一ヶ月の休暇を与えると告げ、解散となった。

「さて、それでは馬堂豊守中佐殿、私としても再びお会いできる事をお待ちしております」
 
「それでは、中佐殿、またお会いしましょう。」
 杉谷少尉が硬い口調で敬礼を捧げ、西田少尉も不敵な笑みを浮かべる。
「おいおい、俺の私兵になる訳じゃないぞ。」
 
「それでは、西田正信少尉、杉谷善次郎少尉、二人ともまた会おう」
「はい、馬堂豊久中佐殿。それでは――さようなら」
 ――さて、後はウチの家族達と積もり積もったお話の時間だ。


同日 午前第十刻 皇都 水軍埠頭
馬堂家 嫡男 馬堂豊久 


 ようやく軍務の話が終わる、式典とほぼ同じ長さってどういう事だ。
「豊久様、豊守様達がお待ちです。」

「お久しぶりです。豊久様」
 見知った顔が二人、挨拶してきたのを見て豊久は数ヶ月ぶりに、ようやく軍服を脱いだ気分になった。
「久しいな、大辺、山崎。俺のいない間は、何かあったか?」
 自分に参謀教育を施した友人にして先輩と向かい合う。
「貴方の事で大わらわでした。こうして無事に戻ってこられて何よりです。」
 血色と表情の薄い顔は変わっていないが僅かに口許がほころんでいる。
「家内では何事もありませんでした、奥方達は気丈な御方です。」
 細い目をさらに細めて山崎が言う。四十絡みで一見只の家令に見えるが家の警護を一任されている。元は馬堂豊長の信頼厚い憲兵下士官と言う強者だ。
「それでは、私は軍監本部に戻ります。明日には上屋敷でお会いしましょう」
 大辺は先程まで話していた少将の下へと歩いて行った。
「――会うのは半年振りだが相変わらずだな」

「えぇ、ですが大辺様も心配しておいででしたよ」
山崎も微笑を浮かべ、秀才参謀を見送る。
「――」

「豊久様。あちらに豊長様と豊守様がお待ちになっています」
「わかっているさ。その・・・何だ・・・アレだ」
 今更ながら生死不明になった上に面倒事を大量に押しつけた身の後ろめたさが今更ながらに押し寄せてきた。
「一緒に謝ってあげましょうか?」

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