第一章
[2]次話
ムーサーの杖
イスラムの占星術師アル=キンディーはアラビア人である、だがこのことを信じる者は非常に稀だった。それは何故かというと。
この頃のイスラム社会では一つの偏見があった、その偏見はというと。
「アラビア人の占いは落ちる」
「アラビア人はこちらは駄目だ」
「占いがいいのはペルシア人かユダヤ人だ」
「実際に彼等は占いが上手だ」
「占星術のことをよく知っている」
「アル=キンディーもそうだ」
「あれだけの占い師がアラビア人でない筈がない」
それこそというのだ。
「ペルシャ人だろう」
「それかユダヤ人だ」
「そのうちのどちらかだ」
こう言われていた、だが。
彼はカリフのマアムーンにバグダートのカリフの宮殿に呼ばれた時にカリフ自身にもそのことを聞かれた。
カリフはキンディーの痩せて色黒で飄々とした感じで黒い髭を果たしたやや小柄な男に対してカリフの座から問うた。
「そなたに聞きたいことが二つある」
「何でしょうか」
「うむ、お主はユダヤ人か」
まずは彼に噂になっているこのことについて尋ねた、カリフは鋭い目を放つ黒い目をキンディーに向けていた。
カリフらしく立派な服を着ていて顔立ちも整っている、その彼がキンディーに問うたのだ。
「どうなのだ」
「いえ、私はアッラーを信じています」
「だからか」
「はい、ユダヤ教徒ではです」
それはというのだ。
「ありません」
「そうなのか」
「ジズヤを納めておりませぬ」
「では一日誤解の礼拝もか」
「しております、私はアラビア人です」
このことを確かな声で言うのだった。
「アッラーに誓って」
「左様か、そのことはわかった」
「はい、それでは」
「ではもう一つ聞こう」
カリフはキンディーに二つ目の問いをかけた。
「そなたは今はイスラムの導師の上座におる」
「この通り」
「それは何故か」
「私もそれはどうかと思う」
その導師も難しい顔で言ってきた。
「このことは」
「それは私が導師殿の知っていることは全て知っていまして」
キンディーはカリフだけでなく導師にも礼儀正しいが何処か飄々とした態度で答えた。
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