第六章
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「そうなる」
「私達もですね」
「美幸ちゃんはお家漫画家さんで」
「農家と兼任で」
「じゃあどうするの?」
「大学受けるつもりですが」
「その時に」
「出るかも知れませんね」
こう兎に答えた、ある日の登校の時にこんな話をした。そして実際に兎も美幸も大学生になるとそれぞれ違う大学だったが村を出てアパートに暮らす様になった。それは就職してからも同じで。
村には実家に帰る機会にしか戻らなくなった、だがそんなある日のこと。
村にお盆で戻った美幸が駅のホームに出ると兎に出会った、二人共大学を出て就職して数年経っている。
二人共大人になっている、だが兎の背はそのままだった。顔や髪型も。
その兎にだ、美幸は笑顔で話した。
「一緒の電車でしたね」
「そうね」
兎は美幸に微笑んで応えた。
「ずっと気付かなかった」
「そうですよね」
「けれど久し振り」
兎は美幸にこうも言った。
「元気だった?」
「この通りです、元気にやっています」
「私も。ただ」
「ただ?」
「もう一つある」
「もう一つっていいますと」
「戻って来てほっとしてる」
これがそのもう一つだった。
「本当のお家に帰って来た気がして」
「そうですね、私もです」
美幸もこう兎に返した。
「お家に帰ってきた」
「そう思って」
「気持ちが急に」
まさにというのだ。
「ほっとしました」
「そうね。ここが私達のお家」
「そうですよね」
「実家のある場所というか」
「お家ですね」
「この村が」
「そう思うと」
本当にとだ、美幸はまた言った。
「余計に」
「戻って来てほっとしている」
「何もないって言うと何もないですが」
「けれど凄く落ち着いた場所」
「そうですよね」
「そんな場所だから」
二人にとってとだ、兎は美幸にこうも話した。
「だから」
「こう思いますね」
「そうね。それじゃあ」
「今からですね」
「駅を出て」
そうしてというのだ。
「お家にね」
「帰りましょう」
「私達のそれぞれのお家に」
「今から」
美幸は兎に笑顔で応えた、そうしてだった。
二人は駅のホームから駅を出た、そこはもう二人の家であった。都会にある様なものは何もない、けれど二人はそこにあるものを確かに感じていた。
それで美幸は兎に言ったのだった。
「お家に戻ってきたので」
「お盆の間よね」
「こっちにいますので」
「その間は」
「ゆっくりします」
「私もそうするわ」
兎は美幸にここでも笑顔で返した、二人は今家に帰ったことを心から喜んでいた。二人の村のその中に。
ふんわりのんびり 完
2019・9・14
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