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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十五話 六芒郭攻略戦(一)
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険視した本領貴族や東方辺境領が経済権益を得る事を厭った〈帝国〉政府中枢や豪商連の意向であるが――投入された部隊である。
 勝ってるうちはそこそこの恩を売買すればよいが一度停滞するとなると面倒な事になる。手柄と恩は政治上の貨幣となるが失態と貸しは誰も引き受けたがらない。

 相互に相手へ敵意の混じった視線を交わらせる。双方ともに失態と成功を重ねている。片や東方辺境領軍はノルタバーン――北領での大攻勢の成功そして第21師団の壊滅。
本領軍は龍州軍の包囲殲滅に第二軍団への追撃と第三軍、近衛総軍による反撃により虎城打通の失敗。

 帝室たるユーリアの権威はこの程度で揺るがぬが問題はその下だ。双方の潜在的な不信感に火を着けてしまった。
 東方辺境領鎮定軍司令部からすればこの不手際の責任は本領軍に帰するものであり、指揮系統からしても自分たちの下の存在である。

 本領軍からすれば東方辺境領姫の”要請”で派遣された部隊であり、〈帝国〉軍最上層部――軍令総監部や軍事省を采配する元帥大将達、さらには〈帝国〉閣僚たち――の意向をうけている。
 いうなれば指揮下であっても”家臣”ではない、むしろ本来の序列は上であるという意識が強い。無理もない、東方辺境領将校団は少なからぬものが数十年前まで”蛮族”だったものが多いのだから。

「‥‥さて、どうしたものか」
 アラノックはさりげなく幕僚たちを制するだけで動きを見せない。
 彼らの考えはわかっている。春になれば親衛軍まで到来する。そうなれば皇帝直属の親衛軍指揮官の下に自分たちは組み込まれかねない。さして意味のない攻城戦で磨り潰されるくらいならば多少の危険を冒しても野戦における勝利が欲しい、それも蛮族鎮定に明確な成果が上がる形で。

 だがそれは困る、というのがこちらの事情でもある。そもそもは本領以上に悪影響を受けていた産業基盤が脆弱な東方辺境領にとって〈皇国〉の経済権益は喉から手が出るほど欲しい。更に立身出世、自作農となる為に東方辺境領で下士官を目指している者は非常に多い。農地が必要なのだ。
 残念ながら東方辺境領の東部、北部の国境はほぼ麦が育つ境界線といっても相違はない。 この先にいるのは鉱物を掘って〈帝国〉と交易をしている者や獣、魚をとって転住を繰り返している者達が殆どだ。
 緩やかに拡大を続けて来たことで保っていた東方辺境領の農業生産は頭打ちである。かといって地主階級を敵に回す真似はできない。
 つまりは新たな農地と”追い出しても構わない”農奴が必要なのだ。〈帝国〉本領に介入されて権益を奪われると今度は軍と東方辺境領の独自性が保てなくなる。
 それは副帝家の矜持と数多くの”蛮族”を取り込んできた東方辺境領軍の崩壊を意味する。本領はもちろん、西方諸候領の人間には理解できないだろう、メレンティ
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