ターン18 もうひとりのエンターテイナー
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「あー……疲れた」
だらしなくテーブルにぐったりと伏せる女、糸巻。数時間にわたりねちねちと厭味ったらしく(本人談)行われた説教からようやく解放され、心底くたびれたという姿勢を隠そうともしない。精神的な疲労に加え煙草を吸う許可も与えられなかったためのニコチン不足もあり、彼女の頭脳は今さながら霧がかかったようにくすんでいた。
「自業自得だな」
そんな抜け殻のようになった腐れ縁の相手をちらりと横目で見据え、ばっさりと切って捨てる鼓。すでにティータイムを終え、その手には甘味のかわりに湯気の立つコーヒーカップが握られていた。
「相手モンスター1体につき500バーンー……」
そしてうわごとのように訳の分からないことを呟く彼女に、見ていられないと世話を焼くのがまだ14歳の少女である。
「ほらお姉様、このマドレーヌ食べてください!甘いもの食べると元気になりますよ!それとも、こっちのシナモン入りクッキーの方がお好きでしたか?」
「うー……悪い八卦ちゃん、あーん」
「ほええっ!?え、えっと、それではお姉様、不肖八卦九々乃、参ります!あ、あーん!」
ぐったりと伏せたまま顔だけ上げて中学生相手に平気な顔して口を開けるいい大人と、それでも幻滅するどころか真っ赤になりつつ緊張のあまり手を震わせながらもその口の中に手にしたマドレーヌをちぎって押し込む少女。退廃的を通り越してある種芸術的ですらあるダメ人間とその製造機の所作を前に、私はこんな女に負けたのかと痛くなってきたこめかみを押さえる鼓。
本人たちの意思はともあれ、それは平和と言えば平和な光景ではあった。しかし、そんな時間は決して長くは続かない。それは闘争に魅入られた彼女たちの業なのか、はたまたデュエルに惚れ込んだ彼女たちの性なのか。
いずれにせよ、短かった沈黙は破られた。店のドアが勢いよく開き、来店を知らせるベルが鳴る音もかき消すほどにハイテンションな大声が響く。
「ハーイ、グッドイブニング!プリティーガールたち、デュエルポリスの糸巻?っていう人を知らないかい?」
明るく顔をのぞかせたのは、本人は普通に笑っているつもりなのだろうが胡散臭いとしか言いようのない笑顔を浮かべ、一目で偽物とわかる金髪のカツラを被り、星条旗カラーに塗られた宴会用と見まごうほどに派手な革ジャンを着た男だった。
「うわ胡散……じゃなかった、いらっしゃいませ」
大声を聞きつけてまたも厨房から現れた清明の放ちかけた一言は、まさにその場にいた全員の心情を代弁していた。その名誉のために一言断っておくと彼とて客商売に長けた身、普段からここまで本音を隠せないわけではない。糸巻の精神をもがっつりと削った長時間のねちねちとした嫌味のこもる説教は、彼自身の心もまた荒ませていたのだろう。
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