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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十四話 虎城防衛線会議
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三つの大街道のうち、皇龍道を通るしかない。
 西州軍が守る東沿道は水軍の支援を受ければ地の利をもって守る事は比較的容易である、
駒州軍と龍州軍の護る内王道も山岳地帯の隘路を利用し、重厚な複線陣地を構築しつつある。
皇龍道は非常に交通の便がよく隘路などもない、防御陣地を構築しても他の二道のように戦力を集中できるわけではないのだ。そしてなにより六芒郭の籠城を立案し、十分な物資の備蓄まで手回ししたのは守原家なのだ。ここで更に手助けを引き出したら危険である。
無論、理想を言えば各軍が総力をもって動けば開囲の為の兵力誘因としては望ましいのだがそれは不可能であった。
「問題無いでしょう」保胤は言った。確かに万単位で動く救援作戦は雨季でないと厳しい、とりわけ駒州軍が単独で動かねばならないのならば。

「一度、期限を定めれば持ち堪えてくれるでしょう、もし敗れるのなら……」
守原は粘っこい視線で保胤を凝視している。保胤は続けた。
「……敗れるのなら、それは致し方ない事かと」

「左様、左様!」守原は大きく頷いた。
「各々方が六芒郭で奮闘する将らを案ずるお気持ち察するに余りある、作戦には各軍ともに参加をする。だが各軍の状況を見極めたうえでそれぞれが計画を立案し、実行する。という事でよいのではないか?」

「………………」

 宮野木中将は鳥のように首をかしげながら言った。
「我々はまず拡充しないと話になりませんな、第二軍に派兵した部隊の補充に人員を割かねばならず、どうも後備の動員が遅れているようで。積極的な行動に出られるとは言えません」

「龍州軍も同じく、どの道我らは過度な期待をしないでいただきたい。冬営向けた大規模演習を行える程度に考えてもらった方がありがたい」
 須ヶ川大将は肩をすくめて同調した。
「西州軍も同意する、“各軍、状況ニ合ワセ臨機ニ対応スベシ”でいいだろう。各軍司令官が”作戦の重要性”を認識していることは確認できたのであれば――方針を共有できたという事でよいのではないか?」
西原大将は穏やかな表情で窪岡の方を向き、言った
「――結論が出たようですな。六芒郭の救援作戦は十月十五日を目途に決行。駒州軍は総力をもって前進し敵兵力を誘引。
各軍ともに軍の拡充と防衛線の構築と並行してそれぞれ誘因行動を行う、それでよろしいでしょうか?」
 窪岡少将の言葉に皆がそれぞれ独自の感情をにじませながら頷く。



 やれやれ、と宮野木清磨はため息をついた。盛大な茶番ではあるがこの茶番の中で”何を言ったか”は重要な記録になるだろう。非公式な密室で話し合った内容とは重みが異なる。
未だに三十半ばを超えぬうちに一軍を率いる羽目になった自分の経験の軽さと自分の立場が与える言葉の重さ、その格差は未だに馴染ま
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