episode10『鬼の居ぬ間に』
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て、すぐ目の前に存在する大窓に体を張り付かせる。
既に時刻は21時を回っていた。とっくに夜は深まって、道頓堀の明るい街並みが敷地の外に広がっている。
学園長室は、聖憐の校舎でもひときわ高い15階建てのエリア、その最上階だ。故にマンションの立ち並ぶ都会でもある程度見下ろすことはできる。
異変は、すぐに見つかった。
各所から、サイレンの音が響いていた。ここから見下ろしても、御堂筋の大通りをいくつかの消防車が通っていくのが分かる。だが問題はそこではなく、それらの目的だ。
消防車が出張る目的など一つだ、火事を除いて他にない。であれば火事が起こっているのだ。
そんな当然の事を敢えて再確認した理由は、たった一つ。
シンが、その光景を信じたくなかったから。
「……うそ、だ」
――轟々と燃え盛る炎の柱が、まるで竜巻のように渦巻いていた。
夥しい量の黒煙を天上の空にまで噴き上げて、ここからでもその凄惨さが見て取れるほどに激しく燃焼している。幸いながらその建造物は周囲の建物からは離れているようで、周りに燃え広がっている様子はない。
それはそうだ、だって中庭が広がっているのだから。燃え移るような距離には何も建っていない、毎日のように義兄妹達と遊んでよく知っている。
炎が大きいのは、きっとそもそもその建造物自体が巨大だったからというのもあるだろう。しかも建物はまだ完全に魔鉄化も終わっていないのだ。普通の木材なのだから、火をくべれば燃える。当然の摂理だろう。
「うそだ」
ばきり、と、併設されていた書庫の小屋が倒壊したのが見えた。何度も何度も入って色んな絵本を読みあさった、思い出の詰まった書庫だった。
手が震える、喉が痙攣する、乾いた眼を瞬きで潤すことも忘れ、ただその光景を受け止める事に全ての思考を費やすしか出来なかった。あまりにも受け入れがたい事実が、そこにはあった。
「僕たちの、家が」
何故、どうして、そんな疑問が次々と浮かび上がる。だが暫く硬直していたところで、ひと際大きく脳裏に響いた言葉が、シンの頭蓋で延々と反響した。
――“私を助けてくれる?シン”――
気が付けば、背後のサトリの静止すら耳に入る事も無く。
シンは、窓の外へ身を躍らせていた。
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