episode10『鬼の居ぬ間に』
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間話をしているみたいに、本当に穏やかな笑顔のままだった。
「それに、僕のエゴで魔女の子を危険に晒すのは相手に悪いですから。契約はやめておきます」
「相手に、悪いって……自分の命が、掛かっているようなものなんですよ?」
「僕が助かるために、相手に酷い怪我させちゃう訳にはいきませんよ。教会の皆には、ちょっと寂しい思いをさせるかもしれないけど……でも、“あんなこと”がもう一度起こるよりはまだマシだから」
すこし気まずそうに苦笑して、シンは首に手を当てる。
目の前の小さな少年が、本当に中学生にもなっていない子供なのかと疑りそうになった。
齢の割には大人びた子だな、とは思っていた。だがこれは大人びているだとか、そういう話ではない。似ているようでまるで違う領域の話なのだ、これは。
この子には、自分を尊重するという考えがない。
それは献身とは似ているようで違う、自分よりも他人を優先させているのではなく、そもそも“自分”というものが勘定に入っていない。自分の事を考えるという選択肢がハナから存在しないがゆえに、他人のためにしか動けない。そうする以外に、自身の存在意義を見いだせていない。欲望が存在していないのだ。
無欲で片付く話ではない、それは人間としてあまりにも不自然な状況。人間という生き物の心の在り方としては、あまりにも大きな欠陥。
――この子の心は、壊れている。
「……逢魔くん。君は……」
先の検査で、気がかりなことがあった。
繋がりを紐解いていく中で、本来あって然るべきのものがない。繋がりというものは、たとえ死という別れを迎えようとも残り続けるモノなのだ。
たとえ相手が死んでいようが生きていようが、サトリの瞳はそれを辿れる。だというのに、本来人間ならば――いいや、生物である限りあって当然の繋がりが、彼にはなかった。
それは、“親子の縁”という必定の縁。如何な生物であっても、自然発生でもしない限りは存在する“親”という縁者。
それだけではない、サトリはその縁を全身に絡みつく糸として視る事が出来る。それらは例外なく、そして当然ながら外へ向けて伸びているのだ。
だが、たった一本。たったの一本だけではあるが、シンの胸の中に、複雑に絡んでくるまった糸があった。
その要因は、恐らくのレベルではあるが推定できる。だが、それは本人の様子を確認しながら解き明かさねばならない。故にこそ、彼の名を呼んだ、その時だった。
「――!!」
がたり、とシンが立ち上がった。
「……。」
「……?……逢魔くん?」
何かに釣られるように歩き始めたシンは、学園長の扉を異様に鋭い視線で見つめていた。少しずつ早くなる足のまま思いきりその扉をこじ開け
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