第十七話 幼児期P
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そして、思い出していた。あぁ、そうだ。この言葉は、この思いは彼女のものだったって。前世で手に取った漫画に載っていた、彼女の願い。願いごとにいつも手が届かなかった彼女が、それでも諦めずに手を伸ばし続けた時のもの。
俺が彼女を強い人だと思うようになったセリフ。だって、普通なら怖い。拒絶されたら、助けられなかったらと、俺ならまず考えてしまう。一度でも失敗したことがあるのなら特に。それを彼女は何度も経験した。
大好きな母親からの拒絶と虐待。愛情と強さを教えてくれた優しい家庭教師との永遠の別れ。それでも、彼女は手を伸ばし続けた。それが大切だから。それが失いたくないものだったから。諦めるな、とただ真っ直ぐに。
そんな彼女の言葉を、あの場面で思い出すなんて。なんとも皮肉なものだ。彼女の存在を消すことになった俺に、彼女の言葉が後押しになってくれたのだから。まるで、そっと背中を押してくれたかのように。
「お兄ちゃん…」
「大丈夫だ」
俺は両手で抱きしめていた妹に笑顔を向ける。俺のことを呼んでくれる大切な存在。もう大丈夫だと、震えるアリシアの背中をあやす様に撫でた。それに緊張の糸が切れたのか、アリシアは声をあげて涙を流し、俺に強く抱きついた。
アリシアの腕から抜けだしたリニスは、逆立っていた毛を落ち着かせていた。その後、嗚咽を漏らす妹の傍に近づき、慰めるように身体を擦りよせていた。
『ますたー。どうやらこの近辺に生物の反応はないみたいです。場所はまだ特定できませんが、ミッドチルダの郊外だと思われます』
「そうか、……痛ッ」
『え、あっ。唇が切れているみたいですね。大丈夫ですか』
無我夢中で転移してしまったが、どうやらちゃんと安全な場所に移動することは出来たらしい。転移してからコーラルは、どうやら周囲を調べて情報収集をしてくれていたみたいだ。今も俺たちを心配しながら、周りを警戒してくれている。
しかしコーラルにも言われたが、唇が切れて血が流れている。自覚すると痛みが襲ってきた。まじで痛くてピリピリする。アリシアの背に回していた片手を口元へ持って行き、流れていた血をごしごしと拭う。服に血が付いたら嫌だし、妹に血がつくのもまずいからな。
たぶんあの時、歯を噛みしめながら走っていたから、その時に切ってしまったのだろう。身体の重さも、頭痛もなくなったからか余計に口の痛みが顕著に響くな。
「……なぁ、コーラル」
『はい?』
「答えづらかったら、別にいいから。その……あの時の俺って、どんな感じだった」
『…………』
そう、あの時の気持ち悪さや吐き気が今はないのだ。アリシアに手が届いた瞬間、すっと俺の意識を塗りつぶそうとしていた何かが消えた。だけど、おそらく消えたわけでは
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