第十七話 幼児期P
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
ヒュードラの事故から3日後。
1人の女性がベッドの上で上半身を起こし、茫然と窓の景色を眺めていた。開け放たれた窓から入り込んだ風が、女性の傷んだ長い髪を静かに揺らす。その目には光がなく、虚ろな表情だった。あの日もこんな風に晴れ渡った空だったと、当時の記憶が思い起こされていた。
ここはクラナガンに建てられた病院の一室。白にまとめられた病室にいるのは彼女1人だけだった。未だに感情が安定せず、情緒不安定だと医師に診断されたためだ。駆動炉の事故から3日たった今も、彼女は苦しんでいた。
事故当時、彼女は駆動炉の開発者として立ち会い、そして目の前で起こった全てをその目で見ていた。あの日は、完成間近となったヒュードラの開発に上層部が訪れ、試運転を決行させた。彼女達開発チームも当然反対したが、結局押し切られてしまった。
何故あの時、もっと強く反対意見を出さなかったのか。どうして上層部の操作を断固として止められなかったのか。いくつもの疑問が浮かんでは、思考を巡らせ、沈んでいく。しかし、今更後悔してももはやどうしようもなかった。事故はもう起きてしまった。止められなかった時点で、開発チームにも非はあったのだから。
「どうして……もっと早く」
ゆえに、彼女は己を責めてしまうしかなかった。彼女は顔を両手で覆う。事故を起こしてしまったことに後悔はある。だが、それ以上に彼女の心を蝕むのは、事故によって失われた……彼女の宝物。
全てを飲み込むような魔力の本流。地響きとともに流れ出た黄金の魔力は、駆動炉とその一体の全てを包み込んだ。開発チームと上層部が無事だったのは、ひとえに完全遮断結界のおかげだった。ヒュードラからの警告音に、開発チームが総出で結界魔法を発動したからだ。
しかし、結界は駆動炉のみで精一杯であった。結界外にあったものを、光は遠慮なく飲み込んでいった。それは森を抜け、彼女たちが寝泊まりする寮にまで届いた。その光景を思い出し、彼女の瞳から一筋の涙が流れる。
ずっと大切にしていた。毎日抱きしめて、名前を呼んでいた。この仕事が終わったら、喜びをわかち合おうと思っていた。だが、それが叶うことはなくなってしまった。
もっと早く気づいていればよかった。そうすれば、こんな喪失感を味わうこともなかったのに。そんな後悔ばかりが彼女の頬を濡らす。急いで部屋の様子を見た時の光景。床の上に無残にも倒れた彼らの姿に、彼女は悲鳴をあげた。あの時の記憶が、彼女の脳裏によみがえる。
「あ、あぁ…」
女性は嗚咽を漏らす。失ってしまったものの名前が溢れてくる。もう抱きしめてあげることはできない。名前を呼び掛けてあげることもできない。そんな心からの思いが、言葉として表へと現れる。
声をあげて
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ