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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十二話 龍塞の裏で糸を紡ぐ
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ている。




「護州公子、守原少将閣下御来訪です!!」
 艶めかしい副官、鋭い目をした参謀やら水軍の将校やら三十名程が来訪している。新聞や瓦版の記者達も同行しており、当然ながらただ実務を回しに来たわけではない事を示している。
「この集落の事務局長を務めております弓月葵二等書記官です」
「お若いのに対したものだな。護州軍副司令官の守原だ」
 定康は整った顔立ちを十全に使い、守原家が営々と築き上げた印象を巧みに活用している。
 子供のちょっとしたわがままを受け入れて見せた。皇都の最高級店で拵えられた騎兵の軍帽を被せてやった少年との念写は〈皇国〉全土で宣伝に使われるだろう。

 一通りの施設を確認し、兵站将校と水軍と廻船主らが入り混じった会議を終えると守原の後継者は局長が座る椅子に腰かけて親しげに葵へと話しかけた

「俺と同じお飾りだと思っていたが、なかなか頑張っているようじゃないか、青年」

「お飾りですよ、そうでなければあちらの部屋にいます」
 葵がひらひらと手を振った先の小部屋には“山を下りた”利益代表部の幹部と参謀たちが打ち合わせている。

「あぁそうか、それもそうだな」年若い公子は声をあげて笑う。
「お飾りはお飾りで重要なものだよ、本人が望むかはともかくとして。それに君は外向けの仕事をよくやっているようじゃないか」

「ありがとうございます」
 葵はそう言いながらも定康の真意は何処にあるのか、と思考を巡らせる
 ――守原の直系で良くも悪くも実戦を経験しておらず傷がない、現護州公の長康公は重病だと聞いている‥‥何か動きがあるか父上に聞いておくか。

「今度の六芒郭の戦では君の義兄上も陣頭に立つだろう」
「そうでしょうね、まだ義兄上ではありませんが」

 あぁまだだったな、それは失礼、とニヤリと笑い、定康は細巻を咥える。副官が阿吽の呼吸で燐棒を擦り、火を着けた。
「駒城はこの戦争で多くの物を得た、武勲、尊敬、若い英雄の誕生‥‥
逆に護州は多くの物を失った。領地、収入、それにともなう商売上の信用。そして民草からの尊敬‥‥それでも先駆者というのは常に偉大に見えるものだ、敗北に折れず投げ出さず家門を護ろうとしている」

「‥‥自分なりにわかるつもりです」

「そうか――なぁ君は細巻を嗜むかな?」「はい、閣下。程々には」

葵の顔を見て定康は吹きだした。「馬堂にでも仕込まれたか?陸軍式の作法は不要だ。ここだと何かと不便だろう、ならばこれでも置いていこうか。副官、宵待!」

「こちらです、弓月殿」個人副官が丁重に葵に手渡した。黒茶の豆を密封した缶に上物のアスローン・モルトの瓶だ。
 細巻は付き合い程度で本当の自分の好みは概ねこの二つだ。

 ――この袋の中身を最初から用立てて
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