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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十二話 龍塞の裏で糸を紡ぐ
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輸入手続きはこちらにもってきてくれ!利益代表部でチェックしたら統領府に承認を執る!
大工への支払いは皇都の契約基準を照会してくれ、単価はそれを使うように!」
 駐天龍自治領〈皇国〉利益代表部二等書記官に加えて避難所事務局長という肩書を早々に増設させられた葵は既に赴任先である利益代表部よりもこの塩辛い風が匂う事務局という名の小屋で長く過ごしている。

 龍上国は天龍の自治領であるが、実は人間の集落がある、とはいってもけして都市のようなものがあるわけではない。港はそこそこの規模だが集落としては村に毛が生えたようなものだ。だがその建物はどれも立派なものである。大工が多いからだ。
 龍塞の天龍都市に入れる人間は基本的には天龍統領府の許可を受けたものだけであり基本的には大工と〈皇国〉政府官僚だけである。
 だがそこに大量の難民が押し寄せてきた、天龍たちは気前よく彼らを受け入れた――というよりも彼らと親交のある女性や導術士達が――妙に手際が良く天龍と話しを着けていたのだ。
 最初は自治を行っている町会所で処理を行おうとしたがすぐに手に負えなくなると察知した彼らは統領府と利益代表部に助けを求めた。
 そして利益代表部内と皇都執政府の間で龍虎湾をはさんだ激しい戦いが行われ、利益代表部内で外務省と内務省と兵部省代表者の殺伐とした高度な政治的闘争が行われ――最後に二等書記官として配属された新入りが――程よく各省に伝手が効き、旧都としての伝統から天龍と関係の深い故州の者であることから体よく責任者を押し付けられたのである。
だがまぁ幸いといえるのは天龍が小まめにあれこれと世話を焼いたことで山麓のすそ野を沿って無事に集落へとたどり着けたこと、軍と警察と役場が事前に計画を練っていたことで多少の混乱はあっても難民側も事務的な把握ができていることだろう。
だが何もかもがこれからといったところだ。療医は倒れる寸前だし食料の備蓄の問題もある。嗜好品が尽きれば騒動が起きかねない。
気を利かせたのか弓月の御用商人が御用聞きにやってきておりと存外どうにかなりそうではある――値上がりを見込んで龍塞で製材を行えないか打診をしている辺りは流石であるが。

「局長、そろそろ」元村役場の人間だった事務次長が囁いた。住民間の問題は彼と彼が割り振った部下達に任せている

「えっ、ア、ともうそんな時間ですか?これはすみません」
 故州の若様は“外向きの仕事”をお願いします。と早々に扱われているがまぁそれを期待されているのだろう、と自覚する程度には葵にも世知があった。
 難民から話を聞くのも“外向き”の仕事の一環である。地位のある人間がここにいるというだけでも存外安心する者は多いらしい――衣食住がそろっていれば。
 そしてそれらを供給するあての一人が本日ここに来訪することになっ
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