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奴隷は嫌だ
第二章

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「何故それを奴隷にする、若しお前達がどうしても奴隷になりたくないのなら」
「まさか」
「まさかと思うが」
「俺達は」
「イスラムに改宗しろ、法学者に言ってだ」
 イスラムのその職業の者にというのだ、イスラムでは司教や神父といった聖職者は存在していないのだ。
「適当な理由を並べて改宗してしまえ」
「適当な理由だと」
「それを言えば奴隷にならずに済むのか」
「それだけで」
「今の俺達はもうナポリには帰られないが」
「そんなのは夢だが」
「そうだ、お前達はもうキリスト教の世界には帰られない」
 このことは絶対のことだとだ、千兆はギンガーザ達に告げた。
「奴隷になるか改宗してだ」
「ここでムスリムになって生きるか」
「サラセンの者になって生きるか、か」
「二つに一つか」
「そうなっているのか」
「好きな方を選べ」
 船長はギンガーザ達に選択を強いた。
「俺もムスリムを奴隷に売らないからな」
「ムスリムならか」
「奴隷に売らないか」
「そうするっていうんだな」
「同じムスリムが奴隷になるか」
 それはないという返事だった。
「お前等の国とは違うからな」
「だからか」
「その時は奴隷にしないか」
「俺達がムスリムになれば」
「その時は」
「そうだ、さあどうする」
 こう言って選択を強いるのだった、ギンガーザ達は船長のこの行為に対してお互いに顔を見合わせた。そうしてだった。
 彼等の間で話した、どうすべきかとだ。
「奴隷にはなりたくないな」
「絶対にな」
「ああ、それだけはな」
「何があっても嫌だ」
「徹底的にこき使われるぞ」
「何されるかわからないぞ」
 少なくとも普通の人間として扱われないことは明らかだった、一番辛い仕事を無理に与えられるのだ。ただ奴隷は財産なのでそうそう無碍にも扱われないが普通の人間として扱われない過酷な船乗りの仕事よりも遥かに辛い仕事が待っているのは明らかだ。
 だから奴隷にはなりたくない、だがそれでもだった。
「しかしな」
「サラセンの連中に入るのはな」
「幾ら何でもな」
「すぐに改宗出来るみたいだけれどな」
「嫌だな」
「そうだな」
 それで迷いに迷っていた、だがここで船長は港から出る船達を見てこんなことを言った。
「ああ、軍艦が出るな」
「ここには軍艦もいるんだな」
「大きな港だしな」
「それも当然か」
「じゃあお前等奴隷に売られたらすぐに漕ぎ手だな」
 軍艦のそれになるというのだ。
「軍艦のそれは辛いな」
「何っ、軍艦のか」
「あれはやばいな」
「狭い中で長い時間漕がされるからな」
「俺達の船を漕ぐよりずっと辛いぞ」
「しかも鞭だってあるしな」
「何かあったらな」
 その時はというのだ。
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