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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十話 再始動する人々
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締まらぬ着任だ、とため息をつく・
「‥‥さて、と」
 皇都から送ってくれた陸軍の龍士はすでに光帯に浮かぶ黒点となっている。
 出迎えはない、というよりも義理の兄(予定)が余計な気を回した所為で本来の予定よりも数時間早くついてしまった。駐在武官へ渡すようにと押し付けられた封筒を慌てて鞄に押し込んだ。
 ――さてどうしたものか。
早く着いた方が良いだろうと馬堂大佐が気を回したのは有り難い。だがこう右も左も分からないとなると見て回って迷子になるという事もあり得る。何しろここは天龍の街だ。何があるかわからない。
手持ち無沙汰である。

『お久しぶりですな葵殿、以前は駒城公の園遊会で』
 聞き覚えのある――というと奇妙なのであるがこう表現するしかないのだろう――”声”がした。
 坂東一之丞――駒城家御育預である新城直衛の友人だ。
「これはこれは坂東様、駒城の御育預殿と龍州と伺っていましたが」
『えぇそのつもりでしたが私事がありまして少々お暇を。
新城殿には申し訳ない事を‥‥あぁところで葵殿は御公務で?』
 
「はい、坂東様。私は外務の者でして」
 ――そうでなければ協定違反ですな。莫迦なことを聞きました。
 と笑うような波を共に坂東は言った。
『それでは利益代表部でしたな、是非ご案内させていただきましょう。
――あぁ飛龍に乗ったのですか。それはまた、どこかで茶でも飲みますか?えぇこの辺りはちょっとしたものがありますよ』
 ふわり、と葵に並び、坂東は案内を始めた。





同日 午後第三刻 駐龍塞〈皇国〉利益代表部
〈皇国〉利益代表部 二等書記官 弓月葵

「ふむ、ほぉ、なるほどな」
「興味深いですねぇ、統領を輩出した一族、それに利益代表の弟君と談笑してからこちらにですか。
いい若手を呼びましたね、重里代表閣下」
「君がここに配属された訳が分かるな、うむ」
 葵を出迎えたのは三名、利益代表、駐在武官とその補佐官 警備対策官とそうそうたる面子である。2年目の外務官僚を出迎えるのに利益代表部の首領格たる3人が駆り出されるわけもない。
 ――まぁ2年目にいきなり対天龍外交に飛ばすというのも妙な話だしなぁ。
「はははっそれは、その、どうも」
  黒茶を飲み、三者三様の含みを持った表情を観察する。利益代表の重里宗信、龍州の寒村地域を治めていた鄙びた諸将家の出身――将家と呼べるかも怪しい、亢龍川の支流にそった幾つかの寒村を治めていた小領主の産まれ。
彼の父親は叛徒にすらなれず、龍州征討の趨勢が決まる流れの中で文を幾つか交わしただけで鷹揚に五将家体制に組み込まれた程度の存在であった。
だがそれだけに天龍との交流は活発であり、息子である彼は五将家体制下では〈大協約〉の研究や天龍との折衝を担当してきた。

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