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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十話 再始動する人々
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あとは迷惑をかけない範囲で好きにさせろと言った筈だ。なんでこっちに問い合わせが来ているんだ――」
 ぶつくさと言いながら報告書に目を落とし――目を剥いた。
「人務――芹沢はどこにいる!」

「もう第一大隊へ出ております、あそこが一番ひどい、無茶をやらせて随分死にましたからね」
「クソッ!ならまだましか、後で導術を呼んでくれ」

「何か知らんが頭を下げれば済む話だろう」

「乱闘騒ぎですが相手が娑婆の人間で記者連中が嗅ぎまわっています。
こうなったら軍司令部の方に任せるだけではいけません、対策を練らなくては」

「申し訳ございませんでした、これからも軍民一体で頑張ろう、ではいかんのか」

「軍の駐屯が増えた矢先にこうして騒動が起これば民の方で不満が噴出します」「憲兵は?」

「憲兵の仲裁が入るような事態にならんようにせねば、という事だ。
娑婆の人間を巻き込んだ殴り合いで憲兵が表に出たらそれでもう失点だ」

「感情の問題か、面倒だな。軍隊は感情の組織、か」
 軍隊の要諦は兵に生存と勝利の可能性を信じさせることだ――騎兵はその象徴ともいえる――故に軍隊とは兵の心理に最も気を配る。貴族の権威化すらもその一つだ。
 だからこそのこの手の揉め事は面倒だ。派手な部隊と派手な娑婆の人間の喧嘩は最も面倒な事態の一つである。
「国家は感情で成り立っています、政治は感情をもっともらしく論理化する為に存在するのです。
であれば軍隊はその寵児でしょう」
「どこから引用した?」「自前ですよ」
 鈴木が鼻を鳴らす。

「首席幕僚殿入室!」
 幕僚執務室の主が登場すると弛緩していた空気がたちまち張り詰めた。鈴木ですら教範そのままの背筋で出迎える。

「何かあったか?」「第一大隊の喧嘩騒ぎです。相手がまずかった、記者が嗅ぎまわっています」
「まさか民間人と揉めたのか?」
「娑婆の職人と喧嘩です。不味い事に泉川の避難民ですよ、それも直前までの築城に志願した奴です
龍州の兵と飲んでいたところで――」

「もみ消せないのか?」
「無理でしょう、職人は横のつながりがある。我々みたいな将校とはあらゆる意味で住む世界が違う。
だが守原は違います、護州は職人の土地だ。貴族気取りでも根っこは棟梁なんて奴もいるくらいだ。そして民草の英雄ですよ、ここでやらかしたら龍州の避難民の反感を買う」

「反感を買うと執政府に反抗的になり、龍州軍の再建計画にまで影響が出る、と」
「つまり?」「若殿様の面子を潰すことになる、それどころか兵部省、執政府にまで話が飛び火するかもしれん。護州に泣きつく羽目になるかもしれん」

「クソッ連隊長がいれば」「連隊長がいたって――あぁそうか監察課にいたのかあの人は。
そりゃ広報にも伝手があるか。警察にも当
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