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ある晴れた日に
83部分:優しい魂よその十八
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、それでいて苦さも混ざったものであった。彼にしては珍しい笑顔だ、それを見る未晴はこう思った。
「色々とな」
「色々って?」
「五月蝿いっていうんだよ、お袋がな」
「音橋君ってお母さんいたの」
「いるに決まってんだろ」
 笑みが苦笑いになっての言葉だった。
「親父もいるぜ。しかも離婚しねえで今も一緒にいるさ」
「そうなの」
「親父は楽器売ってる会社の社員さ」
「そっちなの」
「お袋はピアノの先生でな」
 親子揃って音楽に縁があるというわけである。
「それで家にはでかいピアノだってあるぜ」
「じゃあ音楽には理解あるんじゃないの?」
「それはいいっていうんだよ」
 別に正道のギターには家族からの反対はないようだ。
「けれどな。それでもな」
「それでも?」
「真夜中にギターをやるのは止めろって言われるんだよ」
 こういうことであった。
「近所迷惑だからってな」
「それはね。やっぱりね」
 未晴もこれに関しては正道に分が悪いと見ているようだった。
「仕方ないわね」
「だからよ。夜とかはな」
「寝るの?それとも他のことをするの?」
「いいや」
 未晴のその問いに首を横に振ってみせる。どうやらそうではないらしい。
「まさかよ。勉強はまあするけれどな」
「じゃあ他に何するの?」
「外に出るんだよ」
 何とも意外な返答だった。
「外にな。それで公園とか駅前で弾くんだよ」
「人の迷惑にならない場所でってことね」
「楽譜は懐中電灯で照らしてな。これがかなりいいものだぜ」
「本当に音楽が好きなのね」
 正道のその心がわかってそれに好感を持ちだした未晴だった。
「音橋君って」
「ああ。けれど今はやっぱりな」
 首を捻っての苦笑いだった。
「ギター持って来るのは無理だったさ」
「だから心のギターなのね」
「そういうことさ。何なら今度な」
 自分から未晴に対して言った。
「この風景を歌ったバラード。聴かせてやるよ」
「今のこの。静かな風景をね」
「嫌か?」
 少し真面目な顔になって未晴に尋ねた。
「それは。嫌かい?」
「いいえ」
 正道の問いに対して首を横に振って答えた。
「音橋君がよかったら。御願い」
「よし、じゃあ決まりだな」
 未晴の言葉を聞いて彼も微笑んだ。

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