episode9『家族に』
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いなかったというのもあって、夕飯の時はシスターを避けて動いていたのは事実だ。無論シスターが悪い訳では断じてなく、自分の甘えた考えが要因だとヒナミは認識している。
“心の整理がすぐにできなくても、せめて気取られないように”――なんて考えて動いた結果がこれとは、何とも間抜けな話だ。
「喧嘩、とはちょっと違うみたいだけどさ。ヒナミもあんまりシスターに悪い印象があるって訳でもないんだろう?」
「……うん、ともよが悪い訳じゃないよ。私が、ばかだっただけ」
毛布を深く被り直して、消え入るような声でそう答える。しっかりと声を出したつもりだったのに、喉はその意思に反して大した声を出してくれなかった。
とても複雑な心境だった。べつに、怒っているわけでもない。悲しんでもいない。ただせめて、最初から“あくまでこれは取引なのだ”と突き放していてほしかった。
或いはこれは、失意なのかもしれない。心のどこかで求めていたものが手に入らないと知って、落胆しているのかもしれない。いいや、どうだろう。分からない、分からなかった。
なぜこうも苦しいのだろう、どうして智代を見れないのだろう。これまでと何が変わるわけでもないというのに。
「シスターは不器用だからさ、よく誤解されやすいんだ」
「……?」
ぽつり、とシンがそんなことを口にした。
「昔っからそうでね。口調や態度なんかも固いから、厳しい人だって印象が強くなる。けど実際ほんとに優しくってさ、ずっとみんなの事を考えてる――勿論、ヒナミの事だって」
「……私、も?」
「……さっきもシスターが部屋に来てさ、泣きそうな顔で言われたんだ。『私はヒナミに酷い仕打ちをしてしまった、どうやってあの子に接してやればいいか分からない』って……あんまり、こういうのは言わないほうが良いんだろうけどね」
「ともよ、が?」
どうして?
最初から利用するつもりで招いたのなら、そんなことに思い悩む必要はない。ハナから他人として接してくれていればそれでいいのだ、無理に保護者のふりをする必要なんてないのだから。
と、そこまで考えたところで、ぽすんと頭にくぐもった感触が触れる。横を見てみればシンが毛布越しにヒナミの頭に手を置いて、何やら微妙な表情で苦笑していた。
「多分シスターに何かを言われたんだと思うけど、誤解しないで上げてほしい。あの人は、行き場なんて無かった僕を引き取って育ててくれただけじゃない。僕のこの“歪む世界”まで何とかしようと全力で頑張ってくれた、優しい人なんだ。……ちょっと一言足りなかったり、ヘンな言葉になっちゃったりすることはあるけど……それでも、ヒナミのことも家族みたいに大事に思ってるのは、本当だよ」
「……。」
……本当に?
シンのこと
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