episode9『家族に』
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「ねぇ」
「うん?」
「シンの“歪む世界”って、なんなの?」
ぴくり、と、歳にしては大柄な肩が揺れる。ちらりと肩越しにヒナミの方を覗いたシンは、すこしだけ思案するように目を伏せて、少し渋るように「ん……」と悩むような声を漏らした。
しまった、と内心で後悔する。オーバードイメージは本人にとってかなりデリケートな問題だ、これまでOWを持った人物との交流など無かったこともあって無遠慮に聞いてしまったが、あまり気軽に踏み込んでいい話題ではなかったかだろうか。
「……ご、ごめん。話したくないなら……」
「あぁ、いや、いいんだ。隠すような事でもないからね」
謝るヒナミに笑顔で笑い掛けるシンは、ふと頭の方へと腕を持ち上げる。頭上まで手を上げた彼はそのまま額の上に手を添えると、手首を何かに引っかけているかのように曲げた。
一体何を、と困惑するヒナミに、シンがぽつりと問いかける。
「僕の手、ミナから見て、今どうなってる?」
「え?……おでこに、当ててる?」
「うん、きっと普通はそうなんだと思う。まあ僕から見てもおでこに当ててるには変わらないんだけれど、どっちかって言うと“当たってる”の方があってるかな」
「……当たってる?」
首を傾げて問うヒナミに、シンは一つ頷く。包帯を全部巻き終わったヒナミに“ありがとう”と先に礼を伝えたシンは寝間着を着なおすと、逆側の開いた手でちょいちょいとヒナミを手招きしながら、移動を始める。
歩き始めたシンの横に並んで付いていくと、向かっているのはどうやら上階らしかった。いったい何の用なのだろうか、と疑問には感じながらも、一先ずは話を聞く。
「今ね、腕に全く力は込めてないんだ。僕はこれ以上、このまま手を下ろすことはできない」
「下せない、って……」
「勿論、迂回すれば一発で下せるよ。この位置のまま下せない、ってだけの話さ。角があるからね」
角?と心の中で復唱する。勿論、そんなものはシンの額に存在していないし、明らかに腕はシンが自ら浮かしている。だがきっとそれはあくまでヒナミから見た場合の話。
シンにとっては違うのだろう、オーバードイメージは人の認識、五感の情報を容易く書き換える。彼にとってはそこに角が存在していて、物質として質量を持っているのだ。手は物をすり抜ける事が出来ないように、シンにとっては存在するその角を透過することはできない。
「僕はさ、僕自身が鬼に見えるんだ」
「鬼……?」
そういえば以前シンと話したとき、『鬼』というワードを口にしていた。あの時は“変なの”なんていって流してしまったが、それこそがシンのOWなのだろう。
「そう、鬼。おでこには角があって、からだ中にごつごつした殻みたいなのが張り付い
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