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ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode9『家族に』
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ら響いたような、恐ろしい声がした。

 即座に、ばっと振り返る。一瞬だけ何か紅色の異形の影が目に映って腰を抜かしそうになるも、尻もちをつきそうになったところで、伸びてきた手がヒナミの腰に手を回し支えた。
 驚きすぎて目の錯覚でも起こしたのか、先ほどの異形の影はもういない。目の前にいたのは心配そうな表情でヒナミを支えるシンの姿のみ、その他には誰も見当たらない。

 では、さっきの声の主は?とあたりを見渡しても、彼以外には誰もいない。声質まではよく聞き取れなかったが、あんな声をシンが出すとも思えないし、そもそも声の主は、いったい何に対して言った?

 心を読んだとでも?そんなまさか。

「……大丈夫?ミナ」

「……ぁ……っ、う、ん。だい、じょうぶ……」

 シンの支えを借りて、何とか体勢を立て直す。ふとその風貌を見ると彼の髪は若干湿り気があって、顔色も少し熱に当てられたように赤い。よく見ればその服ももこもことしたパジャマで、随分と触り心地がよさそうだった。
 ……というか、もしかしなくっても風呂に入っている。昼間にあれほどの大怪我をしておいて、なんて危機感のない。

「……お風呂入ったでしょ。傷に障るんだから、シスターに怒られるよ?」

「あはは、それはちょっと見逃してくれると嬉しいなぁ……。しばらく休んでたらなんかすごい汗でさ、流石に気持ち悪くってね」

 “包帯はちゃんと巻き直したから”なんて、寝間着の襟を引っ張って背中の包帯を見せてくるが、少し赤く滲んだソレは明らかに『ちゃんと巻き直した』なんて口が裂けても言えないようなヘタクソさだった。何なら若干傷口が露出していて、たいへん見るに堪えない。
 はぁ、と深くため息を吐く。

「全然できてない。ほら座って、巻き方は昼見たから覚えてる」

「あれっ、うまくできたと思ったんだけどなぁ」

「これを見て何でそう思うのよ……」

 寝間着を脱いだシンの包帯に手を掛けて、一度包帯を解く。バラバラに伸びたそれをロール状に丸めてから、しっかりと傷口を覆うようにくるくると巻きなおしていく。
 ……そういえば、シンが自分で包帯を巻けないのもオーバーワールドの影響だったりするのだろうか。

 自分の姿が歪んで見えるタイプのOWを持ったOI体質者は、自分に関する認識が上手く取れないことがあると聞く。それは例えば、自分が透明に見えるといった“歪む世界”が分かりやすいだろうか。見えない傷の手当てが困難なように、シンもまた己の姿が歪に見えるOWを持っている可能性はある。

 ふと、気になった。

 シスターの言う、人類史上類を見ない程のオーバード・イメージ。それほど強大なイメージを抱えた彼が見る歪んだ世界の景色がいったいどんなものなのか、少しだけ興味が湧いた。

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