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息子を生贄に
第二章

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 彼は妻と共に暫し悩んだ、だが。
 遂にだ、彼は顔を上げてそうして妻に言った。
「決めた、やはりな」
「イスマーイールをですか」
「生贄にしよう」
 我が子をというのだ。
「そうしよう」
「そうされますか」
「それしかない」
 苦渋に満ちた顔でだ、イブラーヒームは言った。
「それが神託だ」
「それならですね」
「アッラーは常に正しい」
「それならばですね」
「疑念を持ってはならずだ」
「生贄もですね」
「捧げなくてはならない、ではな」
 苦渋に満ちているが決意した顔での言葉だった。
「イスマーイールをだ」
「これからですね」
「生贄にしよう」
 こう言ってだった。
 イブラーヒームはイスマーイールにこのことを話して生贄に捧げると言った、すると小さな我が子も素直な声で答えた。
「アッラーがそう望まれるなら」
「それならか」
「はい」
 子供とは思えないしっかりした返事だった。
「ではこれより」
「お前を生贄に捧げるぞ」
「アッラーにですね」
「そうする」
「ならそうして下さい」
「私は素晴らしい子供を授かった。それだけで満足か」
 イブラーヒームはアッラーにこのことを感謝した、そしてだった。
 彼は我が子イスマーイールを地上に転がし短剣を抜いた、その間彼は涙を流し続けていた。そして今まさにだ。
 我が子を短剣で刺し殺そうとした時に天から声がした。
「イブラーヒームよ、待つのだ」
「その声は」
「私である」
 こう彼に言うのだった。
「これでわかるな」
「アッラーですか」
「如何にも」
 声はイブラーヒームに答えた。
「私がアッラーだ」
「アッラーよ、これよりです」
「生贄をか」
「そうです、捧げます」
「それはしなくてよい」
 アッラーはイブラ−ヒームを止めて告げた。
「私は絶対に生贄を求めない」
「ですが私の夢では」
「確かに神託を授けた」
 神もこのことは否定しなかった。
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