第一部
第二章 〜幽州戦記〜
十四 〜出立〜
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「おおぅ。吹き抜ける風がつい心地よくて」
「……それで、どうだ? 稟は」
「間諜の取り仕切り役ですか。……一人、心当たりがあります」
「ほう。その人物は、近くにいるのか?」
「いえ、洛陽にいる筈です。しばらく会ってはいませんが」
洛陽、か。
今はまだ無理だが、黄巾党が片付いたら、一度は行かねばならぬか。
漢王朝が末期だと言うのなら、その現状をこの目で確かめておきたい。
「稟の心当たりというのなら、優秀な人材……そう考えて良いな?」
「それは保証します」
「ならば、その時まで曹操に見つからぬ事を願っておこうか」
「そうですね。歳三様、その際はお供を」
「頼む」
「むー。お兄さんと稟ちゃん、今日はやけに雰囲気良くありませんかー?」
会話で除け者にされたと思ったか、風の機嫌を損ねたようだ。
「そもそも、肝心なところで寝る風が悪いんですよ?」
「仕方ないのです、それほど睡魔は手強いのですよー」
……ふと、頬に冷たいものが伝う。
見上げると、空はいつしか、鉛色となっていた。
「一雨、来るな」
「そのようですね。糧秣が濡れないよう、注意を促しておきます」
「うむ。風、雨の様子を見て、進軍を調整させたい。強行軍では兵の疲労が増すからな」
「了解ですー」
まだ、先は長いのだ。
ここで無理をすれば、士気にも関わる。
雨はそのまま、降り続いている。
進軍は予定の半分まで達したところで停止させ、そのまま野営とした。
「だいぶ、冷えてきたようだ。兵達に十分に暖を取らせるよう、申し伝えなければな」
何とか、全員を賄えるだけの天幕は用意した。
が、雨露は凌げても、寒さだけはどうにもならぬ。
「しかし、驚きました。これだけ大量の天幕を揃えるなど、最初は何事かと思いましたが」
「戦は、人がするものだ。将の働きが重要なのは勿論だが、兵がいなければ始まらぬ。その大切な兵らの疲労を抑え、士気を落とさぬ事。これこそが肝要だ、覚えておくのだぞ」
「はい」
愛紗は、素直に頷いた。
「入るぞ」
「お、御大将?」
「どうしたんです、一体?」
私と愛紗を見て、休んでいた兵達が慌てて身体を起こした。
「そのままで良い。あまり量はないが、これを持って参った。皆で分けてくれ」
「こ、こりゃ酒じゃありませんか? いいんでしょうか?」
「良い。多少であれば、身体も温まろう」
「ありがとうございます!」
「明日からも暫し、このような行軍となろう。くれぐれも無理をせぬようにな」
「へへっ!」
しきりに恐縮する兵達を手で制して、天幕を出る。
「ご主人様。一つ、伺いたいのですが」
「何だ?」
「はい。ご主人様が、私達や配下の
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