第一章
[2]次話
恵王の失態
中国東周時代後期、日本で言う戦国時代の頃のことだ。魏の恵王は己の国を強く大きくすることに腐心していた。
それでだ、周りの者達にいつも強い声で言っていた。覇気に満ちた強い顔立ちだ、威風堂々としており王の服も冠もよく似合っている。
「よいな、常にだ」
「強い軍勢を備えておき」
「そして戦に勝つ」
「そうあるべきですな」
「強い兵が多くいてだ」
そしてというのだ。
「優れた将帥が率いるならだ」
「戦に勝てる」
「左様ですな」
「だからこそですな」
「軍は常に強くしておくべきですな」
「そうだ、そしてだ」
強い軍勢を魏に置いておいてというのだ。
「どの国にも勝ちだ」
「魏をより強くしますな」
「そして中原の覇者となりますな」
「このまま」
「そうだ、周朝はだ」
中華の主とされているこの国のことについても言うのだった。
「最早何の力もない」
「だからですな」
「我が魏が周にとって代わる」
「そうなるのですな」
「そうだ、そして魏が天子となるのだ」
即ち自分自身がとだ、こう言ってだった。
彼は強い軍勢を備え周りの国に戦を仕掛けていった、鍛えた兵達に加えて優れた将帥達も揃えてだった。
多くの戦に勝っていった、だがその彼のところにある日孟軻俗に孟子と呼ばれる者が来て王にこう言った。
「王よ、これでは国は大きくなりませぬ」
「何を言うか」
恵王は孟子の言葉にすぐに首を傾げさせた。
「魏は強勢だ」
「はい、確かに」
孟子もこのことは否定しなかった。
「この国は強いです」
「そうだな、しかもな」
王は孟子にさらに言った。
「余は国のことに常に心を砕いている」
「そのことも自負されていますか」
「洪水が起こった時はだ」
その時はというと。
「その地の民を他の場所に移して住ませてだ」
「救っていますな」
「そして作物が採れぬ時はだ」
即ち飢饉の時はというのだ。
「すぐに稗や粟を出してだ」
「餓えから救っていますな」
「そうしている、まさに常にだ」
それこそというのだ。
「これだけ国に心を砕いている王侯はいない、しかも戦にもな」
「常に勝っていますな」
「そうだ、そのでもか」
「国は大きくなりませぬ」
「そなたのことは聞いておる」
ここで王は孟子自身のことも話した、整った知性に満ちた顔で黒く長い口髭も顎の先から一条生えている顎鬚が目立つ。背は結構な高さだ。姿勢もいい。
「儒者だな」
「左様です」
「儒者は徳を説くな」
「そして礼楽を」
「それを言うつもりか」
「それも申し上げますがそれ以前です」
孟子はこう王に返した。
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