第三章
[8]前話
ラーマは再びシータと共に過ごしはじめた、その後であることがわかりそれで言うのだった。
「そうか、ラーヴァナはか」
「はい、何とです」
「シータ様の実の父親でした」
「ブラフマー神にこの世の全ての知識を修行の結果授けられた仙人がいますが」
「その仙人が知りました」
「ラーヴァナはです」
あのラークシャサの王はというのだ。
「その実はです」
「シータ様の実の父親だったのです」
「そして父親だからこそです」
「ラーヴァナも心の何処かで感じ取って」
「シータ様を脅し惑わし誘っても」
「最後の一線はだったとのことです」
「やはりシータは純潔だった」
このことが仙人が得たこの世の全ての知識の中からもわかってだ、ラーマはあらためて言った。
そしてだ、こうも言ったのだった。
「そしてラーヴァナだが」
「あの者ですか」
「おぞましきラークシャサの王だった」
「あの者もですか」
「ラークシャサであっても微かではあるが心があった」
倫理がというのだ。
「そのことがあった、だからだ」
「シータ様にもですね」
「最後の一線は越えず」
「そのままだったのですか」
「そして命も奪わず危害を加えることもなかったのだ」
つまり安全を保障していたというのだ。
「娘だったからな、ラークシャサといえどもな」
「親は親ですか」
「子を育て慈しみますか」
「そうなのですね」
「その通りだ、だからラークシャサも修行をすれば己を高められるし仙人にも神にもなるのだ」
クベーラという神がいるがこの神は元はラークシャサである、実はラーヴァナとも縁があった。
「そのことも忘れてはならないな」
「つまり我等もですね」
「己を高めるべきですね」
「ラークシャサも親である」
「そしてラークシャサですら仙人や神にもなれる」
「そうなるのですから」
「常に修行をし己を高めることだ」
ラーマは国中の者達に告げた、そのうえでシータを慈しみ国を治めていった。ヴィシュヌの化身の一つであるラーマの物語である。そして妻のシータはヴィシュヌの妻ラクシュミーの化身であった。全ては古い神話の話である。
疑わない 完
2019・5・5
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