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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
カートの挑戦
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経を持っているのだ。
 人が持たぬ牙や爪、分厚い皮膚や毛皮、強靭な筋肉や空を飛ぶ翼を持っているのだ。
 こと身体能力において、人は動物にくらべてあまりにも脆弱だ。
 弱い、弱すぎる。
 ましてや、相手は魔物。

(俺はこの魔物に勝てない!)

 カートの心が挫けた。

 妖虎の眼光に圧倒され、剥き出しの牙に臆し、閃く爪に翻弄され、咆哮に居竦む。
 防戦。いや、逃げ回るいっぽうとなった。

「おい、見ろよ」
「ああ……」
「ただ逃げているだけだ、これはもう戦いでは……」

 魔物の攻撃に圧倒され懸命にかわすカートの必死な姿を見た観客たちは魔物の勝利を確信した。
 もはやカートに声援を送る者はひとりもない。絶対に勝てない強敵に挑んだ愚かな道化の姿を前に言葉を失った。
 やはり、常人は魔物に勝てない。Sクラスの天才たちとは違うのだと。

「恐怖が身体を支配すれば身につけた技も術も使えぬ。カートよ、おまえが勝つのは目の前の敵ではなく、おのれ自身だ」

 隠形をもちいて一番良く見える特等席からカートの戦いを見守る法眼がそう独白すると、近くの席で観戦していた生徒があくびまじりのつぶやきを口にした。

「ふあぁ〜、カートのやつ。なんであんな弱っちい魔物相手に苦戦してるわけ?」

 Sクラス筆頭シン=ウォルフォードがそこにいた。

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