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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
ムスタール森林
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周囲の風景に溶け込む【擬態迷彩】。物理的に変色するだけなら見鬼や索敵魔法によって発見することが可能だが、この妖虎は気配すら消していた。

「その状態だとよほど鋭い霊感の持ち主でもなければ見つけられんな。なるほど、そうして今までやり過ごしていたのか」

 手強いハンターからは隠れ潜み、勝てそうな相手だった場合は物影からの奇襲で仕留める。これがこの妖虎の戦術だった。
 あるかなしかの微かな気配が遠のく。どうやら法眼と戦うのは無益と判断し、逃げるようだ。

(強力な範囲魔法を使用すれば倒すことはできるだろう。だが殺してしまっては捕獲せよとの任務に失敗する。なによりもこの美しい自然を破壊するような無粋な真似はしなくない。それならば……)

 どのような魔法を使うか決めた法眼は呪文を唱える。

「バッカスの返杯、ディオニュソスの歓喜、飲めよ歌えよ酩酊せよ」

 範囲内の大気を高濃度のアルコールに変化させる【酒精酔霧(リカー・ミスト】。さらに相手が虎の魔物ということもあり、法眼はアルコール以外にもとある成分を加えてみた。
 イリドミルメシン、イソイリドミルメシン、ネペタラクトンなどの混合物であるマタタビラクトン。
 つまりマタタビだ。

「ごろにゃ〜ん」

 擬態を維持できずに姿を現し、草の上をごろごろと転げ回る。
 魔物となっても虎は虎、猫科の動物。マタタビの効果はてきめんだった。
 まともに抵抗できる状態ではないことを確かめた法眼は改めて強力な昏睡魔法を施し、【魔力縛縄(ルーン・ロープ)】で厳重に魔物を縛り上げ、捕縛することに成功した。



 魔法学院には実技の練習で使用される練習場がいくつかある。ここもそのひとつで、主に対戦にもちいられる闘技場(アリーナ)だ。
 その面積はバスケットコースの四面分、高さ三メートルの壁の上には観覧席が続いている。
 壁面には強固な魔力障壁が張り巡らされており、中で激しい戦闘があっても外部に影響が出ないようになっていた。
 その中にムスタール森林で捕獲された人食いの妖虎の姿があった。

「GAOOOOッ!」

 観覧席から見下ろす見物人をにらみつけ、不機嫌そうに吼えかける。

「ヒェッ!」

 見物人の大半はその咆哮に身をすくませ、恐れおののく。

「こ、これは噂以上の怪物ですな」
「五メートル近いサイズの虎とは、こうも恐ろしいのか……」
「ええ、伝え聞くよりもこうしてこの目で見ると魔物がいかに大きいか実感できる」
「あの妖気……。まさに魔物!」

 学院の生徒達のみならず、捕まえた魔物を一目見ようと物見高い各界の名士らも連日見物に来ていた。

「餌はなにを与えているのだろう?」
「なんでも生きた罪人を与えているとか」
「ほう……、人を餌に
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