第三章
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「それでもあの頃は白黒でな」
「ユニフォームの色はわからなかったわね」
「それが今じゃな」
「カラーテレビも普通でね」
「普通どころか白黒なんてな」
そうしたテレビはというのだ。
「もうないな」
「そうよね」
「白黒買うのさえ一苦労だったのが」
「今じゃどの家にもあるわね」
「幾つもある家だってあるしな」
「本当に変わったわね」
「そうだよな」
雄馬は小林の好投を観つつ妻に言った、それは真礼も同じで。
家のリビングでまだ小学生の息子と一緒に歌番組を観つつこんなことを言った、夫は今は風呂に入っている。
「お母さんが子供の頃テレビってね」
「凄く高かったんだよね」
「いつも言ってるけれどね」
「白黒でだよね」
「画面も小さくてね、けれどね」
松田聖子の歌を観つつの言葉だった。
「そのテレビがね」
「面白かったんだね」
「凄くね、けれど今はね」
「カラーテレビになって」
「昔よりずっと面白いわ」
「お母さん本当にテレビ好きだよね」
「大好きよ」
否定しない言葉だった、実際にそう思っているが故に。
「だから観てるのよ」
「そうだよね」
「それでね」
息子にさらに言った。
「今もこうしてね」
「僕と一緒にだね」
「観てるのよ。聖子ちゃん今日も可愛いわね」
実はファンだ、それで彼女が出ている番組はいつも新聞のテレビ欄でチェックしてそのうえで観ているのだ。
「聖子ちゃんが出てる番組はいつも観ないとね」
「お母さん駄目なんだね」
「絶対にね」
こう言って観ていた、真礼は最高に幸せだった。
だが真礼は六十代になった時に自分と夫の家に里帰りした息子の子供達つまり孫達にこんなことを言われた。
「テレビ?観ないよ」
「だって面白くないから」
「しょうもないお笑いタレントが騒いでるだけじゃない」
「あと変なコメンテーターが一方的に言い立てるだけで」
そうした風だからだというのだ。
「僕観ないよ」
「僕もだよ」
「えっ、あんた達テレビ観ないの」
真礼は孫達の言葉に驚いて返した。
「そうなの」
「殆どね」
「ネットの方がずっと面白いから」
「2ちゃん楽しいし」
「そっち観てるからね」
「そんなに面白くないかしら」
真礼は孫達の言葉を聞いてまさかと思った、それでテレビを観たがどうにも思うことがあった。それでだった。
雄馬と久し振りに会った時に彼にどうかという顔で言った。
「最近テレビ面白くなくないかしら」
「姉ちゃんもそう思うか?」
これが雄馬の返事だった、二人共すっかり皺が増えて髪の毛も白くなっている。真礼はともかく雄馬は結構肉がついてきている。
「実は俺もなんだよ」
「テレビが面白くないの」
「最近そう思えて仕方ないんだよ」
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