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遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン11 鉄砲水の襲撃者
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痛かったよな、辛かったよな。よく頑張った。本当に、よく頑張った」

 何か言おうとして口を開けるも、胸が詰まって言葉は何も出てこない。わけもなく胸が、頬が、そして目頭が我慢できないほどに熱く火照り、潤んだ視界がぼやけ……それでもなお、目の前にいる彼女の赤い髪色だけがただ鮮烈にその目に映る。つう、と一筋の涙が、ようやく乾いてきたその頬を再び流れ落ちた。そんな様子に糸巻はおいおいと苦笑し、固まった少女をその胸元に引き寄せてできるかぎり優しく抱きしめる。
 ちなみにその後ろで鳥居は、「あ、これ堕ちたわ」と冷めた目を送っていた。

「……」
 
 この糸巻太夫という女、現役時代においては男性よりもむしろ女性ファンの方が多かったことでも当時のデュエリストからは知られている。テレビ中継には親衛隊が黄色い声援を飛ばす様子がしょっちゅう映り込み、バレンタインには並の男プロよりうず高く積まれたチョコレートの山が積みあがる。ひとたびインタビュー等で何かが欲しいと呟こうものなら、その翌日には熱烈なラブレターと共に各地から最高級品が送られる。普段の性格からは想像もつかない時たま見せる優しさのギャップは、スキンシップを特に意識しないその気性も相まって数多の女性を虜にしてきた。そして恐ろしいことに、それだけ見境なしに堕としておいて本人には全くその気がない。そう、ちょうど今のように。
 赤髪の夜叉がかつて無自覚系女たらしとまで言われていた所以を現在進行形で目の当たりにし、貴重なものを見たと心の中で手を合わす。

「なんつーか、糸巻さん」
「ん、なんだ?」
「……いえ、なんでもないっす」

 よほどその口から出ようとしていた「でも厳しくしてから急に優しくするのって女たらしってよりかはDV夫のやり口ですね」などという言葉を寸前で呑み込む程度には彼は賢明であり、また自分が大事でもあった。

「妙なやつだな。さて、アタシらも帰るとするか。今日はもう遅い、とりあえず出直しだ。八卦ちゃん、そろそろ離れてくれると嬉しいんだが」
「えへへー。お姉様柔らかくてあったかいです〜……」
「デレッデレじゃないですか。よかったですね糸巻さん、ひゅーひゅー」
「あのなあ……鳥居、お前がアタシ馬鹿にしてる時の煽り方ってなーんかいっつも雑なんだよなあ。あ、こら八卦ちゃん、どこ触ってんだちょっと!?」
「ふえっ!?え、あ、し、失礼しましたお姉様っ!つ、つい……」
「つい!?」

 雑に羽織っただけで前も留めていない制服の下、薄手のシャツ越しにその存在感を強く主張する彼女の双丘。しがみついて泣きはらすところまでは許容できても、さすがに直接まさぐるのはいくら彼女であってもNGらしい。しかし慌てて手を放して頭を下げた少女の目に、その顔がほんのかすかに赤くなっていたように見えたのは光
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