第三幕その七
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「泉鏡花が大成したのはね」
「尾崎紅葉と出会ったから」
「だからだね」
「お師匠さんを敬愛していたのね」
「それもずっと」
「そうなんだ、ちなみに金色夜叉は未完だよ」
尾崎紅葉のこの代表作はというのです。
「尾崎紅葉の手では終わっていないよ」
「あれっ、変な言い方だね」
「尾崎紅葉さんの手ではって」
「ちょっと引っ掛かる言い方だけれど」
「何かあるの?」
「尾崎紅葉は終わらせていないけれど」
このことは事実でもとです、先生は皆にお話します。一緒に紅茶を飲んでティーセットを楽しみながら。
「他の人が書いてね」
「終わらせたの」
「そうだったの」
「尾崎紅葉さんが終わらせてなくても」
「他の人が書いてなんだ」
「終わらせたの」
「今の日本でもあるね」
他の人が書いて完結させることはです。
「作家さんが亡くなってしまったりして」
「あるね、残念なことだけれどね」
「書いている人がお亡くなりになってって」
「それで未完に終わるってね」
「世の中どうしてもあるからね」
「そう、けれどね」
それでもというのです。
「他の人が志を受け継いでね」
「そうしてだよね」
「作品を何とか終わらせることはね」
「あるよね」
「この日本でもね」
「僕が思うに作品はね」
先生はしみじみとして言いました。
「小説だけでなく絵画でも彫刻でもね」
「何でもだね」
「一旦創作をはじめたら終わらせる」
「そうしないと駄目だね」
「絶対に」
「その通りだよ、これは創作者の義務と思うけれど」
それでもというのです。
「亡くなってしまったらね」
「仕方ないからね」
「そうした場合はね」
「だからね」
「その時は他の人が受け継ぐ」
「そうしないと駄目ね」
「その時は」
「うん、さもないとね」
そうでないと、というのです。
「その作品も浮かばれないよ」
「じゃあ書いても未完のままっていうのは」
「絵でも彫刻でも」
「完成させないでほったらかしはね」
「よくないんだね」
「そう思うよ、完結させるのは義務と思うから」
それ故にというのです。
「ほったらかしはよくないよ」
「そうだね」
「先生の言う通りね」
「一旦創作をしたら完結させる」
「それが作品に対する義務だね」
「終わらせることが一番難しくても」
それでもというのです。
「終わらせないといけないよ」
「完結させる、完成させる」
「そうしてこそだね」
「それが一番難しくても」
「終わらせないといけないんだね」
「日本語で言うと風呂敷を畳むだね」
この言葉になるというのです。
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