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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
魔人変生
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しいものがあります」
「ほぅ、それはなんだい?」
「領民の――、いいえ、すべての民の笑顔を見ることです」
「――ッ!!」

 驚愕がシュトロームを貫く。
 術は完璧。みんな本心からの望みを口にするようになっている。目の前の少年は、カートは本当に民の笑顔を見たいと願っている。
 かつての、自分のように。

「綺麗事を!」

 あってはならない。
 領主を慕う領民、領民を想う領主など、もう存在してはならないのだ。
 否。最初から存在などしていないのだ。
 信じれば裏切られる、信用すれば殺される。それがこの世界の真実だ。
 偽善と虚飾に満ちた世の中を改革する。本能と実力のみで生を勝ち取る魔人が跋扈する修羅の巷。それこそが彼の、シュトロームの創ろうとする世界だ。
 もはや悠長な真似はしない。シュトロームは強引にでもカートを闇に沈めることにした。
 魔人(ディアボロス)種子(シード)を埋め込み、覚醒させる――。



 まるで人が変わったかのように振る舞うカートの噂はすぐに広がった。
 唾棄される行為とされている魔法学院内での権力を振りかざして他者を害する行為。いや、学院内だけにとどまらず、あちこちで伯爵家の威光を笠に着て乱行におよぶカートはすぐに父であるラッセルの命により拘束された。 
 自宅謹慎中のカートのカウンセリングという名目でリッツバーグ邸に訪れたシュトロームは敷地内に足を踏み入れた瞬間、奇妙な圧迫を感じた。
 空気の壁に阻まれているような、水の中を歩いているような抵抗を感じる。

「魔力障壁……? 結界というやつですか」

 悪しきものの侵入を防ぐために邸の四方に配置された法眼の護符が反応しているのだ。

「この種の地味な魔法はこの国の者達は不得手だったはず。どうやら例の男の仕業のようですね」

 魔力を纏い、強引に歩を進める。
 ありあわせの品で作った即席の護符だ。シュトロームの魔力に抗しきれず、すぐに呪力を使い果たし、札は燃え尽きた。
 中庭にさしかかると今度は周囲に霧が沸き立ち、視界を塞ぐ。もとより眼帯をしており魔法的視覚で周囲を関知しているシュトロームであるが、この霧はその魔法的視覚すら狂わせた。

「これはこれは! 【迷路(メイズ)】ですか。闇雲に歩き回っても目的地にはたどり着けず、堂々巡りさせる幻惑魔法。魔法を『兵器』としか考えていない火力バカな連中には考えもつかない芸当ですね」

 シュトロームが意識を集中すると、その体が重力の枷から外れ垂直に浮かび出した。浮遊魔法だ。
 霧の影響を受けないであろう上空に逃れて進もうとしたのだが――。

「――ッ!?」

 危うく地面に「頭から」衝突しそうになり、あわてて方向転換する。どうもこの霧は地上のみならず上空にも作
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