第四章
[8]前話
「あの人に、二十年来の恋人に対するな」
「王に尽くして下さった」
「あの方へのですか」
「お務めなのですか」
「王の」
「そうだ、だからだ」
それ故にとだ、王は正面を向いたまま彼等に答えた。
「ここはだ」
「このままですか」
「あの方の葬列を最後までですか」
「見送られますか」
「そうさせて欲しい」
こう言ってだった、王は葬列が見えなくなるまでその場所に留まった、その間涙は止まらず濡れそぼっていても意に介することはなかった。
そして王は侯爵夫人について後日言った。
「私を支えてくれた人だった」
「まさにそうですね」
「あの方は全てを王に捧げられました」
「そうした方でした」
「寵妃以上だった」
その存在はというのだ。
「実に素晴らしい人だった」
「だからですね」
「今もですね」
「あの方のことを忘れられない」
「そうなのですね」
「そうだ、これからもだ」
まさにと言うのだった。
「何かあろうともだ」
「あの方のことは忘れない」
「そうされますね」
「この肖像画もある」
侯爵夫人の肖像画だった、着飾りソファーの上に着飾っている。その彼女の肖像画を観つつ言うのだった。
「だから決してだ」
「あの方を忘れず」
「そうしていかれますか」
「私は女性は好きだ」
ルイ十五世は好色として知られている、これは曽祖父であり先代のフランス王であったルイ十五世の血であろうか。
「しかしその女性達の中でだ」
「ポンバドゥール侯爵夫人はですね」
「特別の方だった」
「そうであったのですね」
「二十年来の恋人であり友人であったのだからな」
それだけにとだ、王は言うのだった。そうして多くの愛人達と浮名を流しながらも彼女のことを忘れることはなかった。
二十年 完
2019・1・16
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