第五章
[8]前話
「他の者に偉そうに言っていても」
「自分は、だな」
「言う程のことは到底」
「それは何故かもわかるな」
「人を見てばかりで自分を全く見ていないからです」
「そして自分を磨いていないからな」
「大したことはありませぬ」
自分を磨く、努力することがおろそかになっているからだというのだ。
「他の者に偉そうに言って自分は偉いと思ってです」
「自己満足して終わっているな」
「その程の輩です」
「そこまで言うのなら私が言うこともわかるな」
「はい、私にはですね」
「それだけの頭と目があるのだ」
その二つがというのだ。
「それならな」
「そうした輩にはならないことですね」
「人はまずな」
「自分を見ることですね」
「そうだ、それからだ」
そのうえでというのだ。
「人の短所も長所もな」
「両方を見てですね」
「見極めることだ、わかったな」
「はい、私はどうもです」
「一歩間違えるとな」
「説教好きの者と同じになっていました」
子貢は師に自省の言葉を述べた。
「これからはです」
「私の言った通りにしてくれるか」
「はい、そうさせてもらいます」
「ではその様にな」
孔子は子貢の言葉に頷いた、以後子貢のそうしたところはあらたまりこれまで以上に学問と修身に励む様になった。
その彼を見てだった、孔子は知人に話した。
「弟子の過ちを見て正す」
「このこともですね」
「師匠の務めです」
それになるというのだ。
「ですからこの度はです」
「よいことが出来たとですね」
「思っています」
「そしてそれが出来たので」
「よかったと思っています」
「左様ですか」
「はい、これで子貢もあらたまりそのうえで」
彼のことを思いだ、孔子は知人に笑顔で話した。
「より正しき道を歩んでくれます」
「そうなったこともですね」
「実に嬉しく思っています」
孔子は笑顔のままだった、そして彼の言葉通り子貢は今もその名を残す孔子の高弟の一人となっている。彼に諭されたこともそうなった一因であることは言うまでもない。
弟子への忠告 完
2018・12・13
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