口入れ屋式の交渉術
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期会長として付き合いが発生する可能性のある後継者候補であれば尚更だ。
「いいか?このシュート様からは優秀な針子を何人も紹介してもらった。私の代でこのロベーヌ商会が更に発展できたのは彼のお陰と言っても過言ではない!」
「いやぁ、それほどでもないですよ」
「にも関わらず、お前は私の態度を見ても暴言を吐いた事を謝罪もせずに相手の姿だけで人となりを判断して侮った態度を取った!こんな愚か者を後継ぎにするほど、私も馬鹿ではない」
「そんな、親父!待ってくれ!」
「さぁ出ていけ!貴様はもうウチの息子ではない!」
そう言うとエリオットはエミールの顔を平手で殴り、店の外へと追い出してしまった。
「あ、あの……どういう」
「あぁ、今のやり取りは当然ですよ。貴族の中にはそういう『遊び』をされる方が時折おられますから」
この世界には、貴族制度が存在する。そして当然ながら、貴族と平民の間には谷よりも深い身分の差がある。無礼を働けば、平民は殺されても文句が言えない程の。それを解っている貴族達は、それを利用して戯れに平民を『からかう』のだ。例えばそう、今のシュートがやったようにわざとみすぼらしい格好をして店に入り、店員にぞんざいな接客をさせた後に身分を明かし、先程の無礼な態度は何なのかと詰め寄る。当然、店側は貴族に逆らう事が出来る筈もなく、何らかの利益を提供する羽目になる。そういう事を避ける為にも、店……特に客と直接触れ合う店番は人を見る目を殊更重要視される。そう言う点で言えば、先程のエミールの対応は最悪だ。何しろ、シュートが万が一有力な貴族だった場合店その物が潰されていた可能性すらあるのだから。それを考えればエリオットの決断は英断と言える。
「お、恐ろしい世界なんですね……」
そんな魑魅魍魎の行き交う世界とは無縁の田舎で暮らしていたニナは、恐ろしくなって身体をぶるりと震わせた。
「まぁ、馴れてしまえば楽な物ですよ。町の外に出て魔物と戦うよりも余程……ね」
「大変お見苦しい物を見せました、シュートさん。して……今回はどの様な御用向きで?」
エリオットがそう尋ねると、シュートはニンマリと嗤った。
「お慶び申し上げる、エリオット殿」
「……は?」
「将来の商会長婦人を見つけて参りましたよ」
自信満々にそう言い放つシュートに、呆然とした表情のニナとエリオット。
「取り敢えず、詳しい話は奥で聞きましょう」
そう言ってエリオットは店頭に別の店員を立たせ、2人を奥へと招き入れた。それほど長くない廊下を進み、突き当たりにあったドアをエリオットが開ける。そこは執務室と商談用の応接室を兼ねた部屋のようで、高級そうな文机と本棚、座り心地の良さそうなソファとローテーブルが同居し
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