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至誠一貫
第一部
第二章 〜幽州戦記〜
十二 〜襲撃〜
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男に、近づく。

「て、てめぇには血も涙もないのかっ!」
「……理由はどうあれ、貴様らは規律を乱したのだ。死を持って(あがな)って貰う」
「や、やめろぉぉぉっ!」

 往生際の悪い男だ。
「無駄だ。大人しく、成仏致せ」
 それでも、剣を振り上げる男。
 その喉を、恋の矢が、射貫いた。

「……兄ぃ。無事?」
「ああ。助かった、恋」
「……ん、良かった」

 恋の眼が、心なしか潤んでいるようだ。

「心配をかけたようだな。だが、私は死なぬ。お前達のためにも、な」
「……大丈夫。兄ぃは、恋が、守る」

 ふふ、鈴々のような事を申すではないか。
 何となく、頭を撫でてやりたくなった。

 ……だが、嫌がらぬかな?
「……?」

 首を傾げる恋。
 ……嫌がったなら、謝れば良いか。
 そう思い直し、恋の頭に手を載せる。

「……兄ぃ?」
「嫌なら、止めるが?」
「……(フルフル)」
「そうか」

 そのまま、髪を梳くように、そっと撫でてやる。

「……兄ぃ。それ、好き」

 つい先ほどまで、正確無比な弓裁きを見せていた人物とは、誰が同一だと思うであろうか。

「ご主人様!」
「主! お怪我はござりませぬか!」
「うむ。皆も、無事のようだな」

 恋の頭から、手を離す。

「……あ」

 どこか、残念そうだ。
 ……また、折を見て撫でてやるか。



 一刻後。
 騒然とした中、私は皆を集め、前に立った。
 元黄巾党の者は皆、一様に不安げな顔をしている。

「お主達に、申し渡す」
「…………」

 場が、一度に静まり返る。

「つい先ほど、一部の不心得者が、脱走を企て、騒ぎを起こした」

 一様に皆、目を伏せている。

「我が軍は、義勇軍である。いかなる理由であろうとも、盗みは認めぬ。また、指示された戦以外での殺しもまた、然りだ」
「…………」
「よって、この騒ぎに加わった者は皆、処罰した。だが、此度の事は、皆が事……とは思わぬ。よって、騒ぎに加わっておらぬ者については、一切を不問とする」
「……で、では、お咎めは全くない。そう、仰るんで?」

 前にいた男の問いに、はっきりと頷く。

「そうだ。もし、この仕置きに不満がある者は、直ちにこの陣を去るが良い。ただし、再び賊として民を苦しめるならば、容赦はせぬ。左様、心得よ」
「……へ、へいっ!」

 これで、大多数が去るならば、それも仕方あるまい。

「出立は、今日の昼。それまでに各自、身の処し方を決めておくよう」

 それだけを告げ、私はその場を後にした。

「なあなあ、歳っち」
「……霞。なんだ、その呼び方は?」
「アンタが好きに呼んでええ、ちゅ
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