『天才』の足跡〜その一〜
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─歓楽街─
あの後、何とか服装を整え、掃き溜めのような我が家から出ていき、仕事場である歓楽街へとやってきた。
深夜の歓楽街というのは、昼間とは全く違う顔をしている。
客引きの男が、遊び目当てでやって来ているサラリーマンを誘い、若い女が男からカネを貰い、そのまま人混みの中へ消えていく。
こんな所へ、深夜に小学生の私がいてもいいのかと思うのが普通なのかもしれないが、私は指して何も思わず、待ち合わせ場所であるキャバクラの前で待機していた。ここのキャバクラに来る人は、厄介事に絡まれたくないからのか、私の近くには寄ろうとしなかった。
今日の客は、四十代の男。顔は見たが、デブでメガネでハゲで油でギトギトと、いかにもな風体だった。
「普段の倍出す」と言う言葉につられたあの下衆が、さっくりと私を売った。もはや、アイツは私の事を、金儲けの道具としか思ってないのだろう。
今思えば、何故誰にも助けを求めなかったのか、不思議でならなかった。多少なりとも児童虐待への注目度が高まっているこのご時世。ここまで酷いとなると、幾らでもやりようがあったはずだ。
しかし、当時の私には、そんなことを考える余裕などなかった。
ただただ、早く眠りたかった。
布団に入り、目を閉じ、幸せな自分を想像する。
美味しい食べ物を、お腹いっぱい食べている自分。
ふわふわな布団で、ぐっすり眠っている自分。
犬や猫などの動物に囲まれて、楽しそうにじゃれ合っている自分。
そんな私を想像することだけが、私の楽しみだった。
しかし、そんな私は、この世界には何処にもいない。
居るのは、薬物中毒者の父親に家庭内暴力を受け、散々酷い目にあっている、惨めな自分。
そんな私が、幸せな生活など、送れるはずがない。
「──一ノ瀬 瑞希ちゃんだね?」
……突然話しかけられ、私は冷ややかな目で目の前の人物を見た。
いつもなら、話しかけられた瞬間、自分でも寒気のするような笑みを浮かべ、相手に気に入られようとする。それもこれも、相手は、下心満載の男だからだ。
今回も、男という意味では合ってるのだが、客の男ではなく、三十代に入るか入らないかくらいの、ビシッとスーツを着た、童顔の男だったからだ。
「……悪いけど、先客が居ましてね。お引き取り──」
「まぁまぁ。話だけでも聞いてくれないかな?」
男はそう言うと、私に封筒を差し出してきた。最初こそ怪訝そうにそれを見ていた私だが、その分厚さに目を疑った。
恐る恐る手に取って、中を覗き込んでみると、今まで見たことないほどの万札が入っていた。暑さで言うと、二センチはあろうかという厚さだった。
「……………名前
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