第二章 十三年の孤独
第47話 対話
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れた様子で椅子をひき座るシエルに「貴方もどうぞ」と促され、天馬は不思議に思いながらも向かいの席に腰を下ろした。
自然と向かい合わせになる両者。少しばかりの気まずさの後、再度姿を現したゲイルの両手には何やらお盆のような物が握られている。
「お待たせしました」と言いながら、両者の間に置かれたのは灰色の液体が入った二つのティーカップだった。
「これは……」
「安心して、ただの紅茶ですよ」
そう言って右手でカップを持ち紅茶を嗜むシエル。その光景をしばらく見つめると、天馬は視線をカップの中へと移した。
カップの中で揺れ動く灰色の液体は、ツヤツヤと光沢を放ち天馬の顔を映しこんでいる。
恐る恐るカップを手に持ち、中の液体に口をつける。舌に絡み付く甘い感触に一瞬顔をしかめたが、よく味わってみるとなんて事は無いただの紅茶だった。ただあえて一つ言うならば、普通の紅茶では無くミルクティーだった事だけか。
それでも慣れ親しんだ味に、天馬は心の中で安堵の息を漏らした。
「お味はいかがですか?」
向かいの席で尋ねたシエルに「美味しいよ」と笑って答えてみせる。
やはり色が無い物を口に運ぶのは躊躇いがあったが、一度飲んでみればそんな心配は杞憂であると分かった。
だが、なぜだろうか。確かに味は美味しいのに、それでも普段自分達が飲んでいる物とはどこか違う気がする。
「シエル達、イレギュラーも紅茶を飲んだりするんだね」
「ええ。空腹になると言う事はありませんが、嗜好品として楽しむ事はありますよ」
「まあ、それも俺達のような顔のある存在に限るけど」と自らの顔に触れ言葉を続ける。
儚げに笑う彼の表情に「そう言えば」と、天馬はこの世界に来て空腹はおろか喉の渇きすら無い事に気付いた。
時間の概念が無いとお腹も空かないのか。どこか違う味のように感じるのも、もしかしたら色が無い影響かもしれない。喉元を過ぎていく生ぬるい感触に、そう一人結論付けた。
「少しは落ち着きましたか?」
「え?」
カチャリと持っていたカップを置き、シエルが唱えた。突然の言葉に天馬は間抜けそうな顔で首を傾げる。
「先程の貴方は俺達に対し強い罪悪感を感じ、冷静さを失っていた。だから俺はこうして貴方をお茶に誘ったんです」
「あ……」
シエルが言うと、天馬は持っていたカップを置き目を伏せた。
悲し気に沈むその表情にシエルは目を細めると、変わらぬ様子で話し続ける。
「貴方の他人を思いやる気持ちはとても美しい物です。それが貴方が沢山の人を惹き付ける所以であり、貴方自身の長所でもある。でも、強すぎる思いやりと責任感は、時に自分を縛る鎖にもなると言う事を理解してください」
理不尽に今回の事故を起こしたカオスに対する怒り。
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