暗剣忍ばす弑逆の儀 (上)
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決死隊を募る。
国語のおさらいだ。
『決死』とは命を投げ出す覚悟をする事である。
『隊』とは二人以上が集まっている組織である。
――とりとめもない常識的な国語力だ。魔術世界に関わる者は、そうした『言葉』に秘められた意味についての造詣が深い。というのも、そうした言葉の意味を拡大したり歪曲したり、某かの言葉に繋げて意味を増幅させたりするからだ。
一般にこれを『言霊』という。他にも言い方はあるが今はどうでもいい。魔術とは学問である故に、魔術師なら語学に堪能でなければ話にならない。そうした言霊を用いて呪文とし、それを構築して自らの魔術を支配して、操作する暗示とする。人間が築き上げてきた文明の根底、全ての鍵に言葉と文字がある故に、魔術学的な見地から見て最も力を持つ『言葉』に対し、どうしても理解が深くならなければならないのだ。
シロウもまた魔術師だ。固有結界という魔術世界の奥義を先天的に宿していた異能者に近く、魔術師としては二流以下の三流、正確には魔術使いではあるが、彼が魔術を齧っている事に変わりはない。
故にそうした言葉の力を軽視したりはせず、単語の一つ一つ、繋ぎ合わされた文面から様々な意味を見いだして何通りの解釈が成り立つかを考察する癖があった。これは長く魔術世界に棲み、生き残ってきた者全てに共通する習性である。これがなければ何事に於いてもカモにされるだけだという事でもある。
決死隊。嫌な名称だ。『命を投げ出す覚悟をした、二人以上の人間が集まった組織』? 馬鹿げている。なんだってそんな覚悟を、複数人が共有して集まらねばならないのか。
最も馬鹿げているのは、その隊を募ったのが他ならぬシロウ自身であり、決死の覚悟を抱けと命じている事。苦虫を噛み潰した表情になりそうなのを鉄の意思で押し隠し、シロウはマザーベースの秘匿されている地下通路の入り口で、我先にと集い横一列に整列した九人の兵士達を見渡した。
「――作戦の概要を説明する」
それぞれがバラバラの、民間人の服装をしている。シロウ自身も平凡な服装に切り替えていた。右の単眼を細め、自身を見詰める兵士達に淡々と告げる。
「マクドネルが敵地に囚われている。これを救出するのが作戦目標の一つだが――率直に言ってこれはあくまで《ついで》に過ぎない」
非情な物言いだ。しかし「ついで」と言いつつ、額面通りに受け止める者はいない。シロウがどういった男なのか、彼らはよくよく理解していた。
彼の言う「ついで」は、本命と同じ比重を持つ。事が人命に関わるともなれば、手を抜くなど断じて有り得ない。それが『人類愛』がBOSSと呼んで慕う男の在り方なのだ。
「奴のバディ、アレクセイの持ち帰った情報は非常に重く、深刻だが、俺達の置かれた状況を打破
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