暗剣忍ばす弑逆の儀 (上)
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し得る貴重なものでもある。即ち要点は三つ。敵地を把握出来た事。その敵地への侵入が極めて容易である事。何よりも、敵首魁の『暗殺』を達成させられる公算が高い事。間違えるな、マクドネルの救出は二の次三の次、本命は『ケルトの女王メイヴを暗殺する事』だ」
それは起死回生の、一発逆転を狙う策である。
シロウからすれば特異点化の原因を排除し、人理定礎が復元されてしまった場合、自分がどうなるのか今一把握出来かねているので、出来れば倒したくはないというのが本音だが。
しかし今、そんな事を言っている場合ではない。自分一人の命に拘泥して、この大陸に生きる人々を命の危機に晒し続ける訳にはいかなかった。やれるなら、やる。迷いはない。
「ケルト軍は人間を必ず捕虜とし、生きたまま敵拠点まで持ち帰るそうだ。マクドネル達はそれを利用して潜入した。俺達もそうしよう。同様にかなりの大人数の人間が『資源』として捕まっているらしいが、そちらは見捨てる」
苦渋を滲ませる事なく、合理的に、冷徹に告げる。しかしそこでシロウは鼻を鳴らした。
「――と、言えたら楽なんだが。生憎と俺達の理念はそんな現実的なものじゃない。救える限り救い出す。だがどうしても救いきれない人間は出てくるだろう。こうして決死隊を募ったのは、お前達に任せる任務がマクドネルや他の捕虜を助け出す事だからだ」
合理。冷徹、無情。鉄の理念に情の血など流れるはずもなし。しかしシロウは相好を崩して苦笑した。
馬鹿げている。底無しの阿呆だ。時として犠牲を容認するのが軍略家として、組織のリーダーとして持つべき最低限の覚悟なのに、それを受け入れられぬと子供のように駄々を捏ねている。
命懸けの戦いに赴こうというのに。死地に飛び込もうというのに。既に幾人もの仲間を自身の指示で死なせているのに。尚も綺麗事を説く己の面の皮の厚さには、我ながらほとほと呆れ返る他ない。
「率直に言って『暗殺』するだけなら俺と春だけでいい。身軽な上に、気が楽だ。だが敢えてお前達を連れて行くのは、あくまで『人類愛』の理念に沿う為でしかない」
そう自覚していても、貫く。
だから信念というのだろう。自らの欲に邁進する、まさに魔術師だ。
「綺麗事だ。理想的すぎて絵空事に聞こえるだろう。だが俺達はその理想を忘れてはならない、追い求める事を忘れてもならない。その結果として理想に溺れ、溺死する事になっても。貫き通せばそれが真実だ。俺はお前達にこの理想の為に死ねとも、命をくれとも言わん。理想の為に命があるんじゃない、命を遂げる道標として理想がある。
その上で訊こう。今回の任務には拒否権がある。ここに残り家を守る事の方が重要かもしれない。それでも……お前達は『人類愛』が掲げる――いや、俺が掲げる旗に付
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