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人理を守れ、エミヤさん!
女難転じて福と成すのが士郎くん!
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……やはり斃せぬ。私には分からなかった。何故斃せぬ、何故己よりも弱いはずの者を相手にこうも手こずる。遂には問いかけておったよ。儂の方が強い、なのに何故儂はお主を殺せぬ、とな。まるで白痴のように」
「『英雄ってのは、力だけで捩じ伏せられるほど容易いモンか? それともアンタの弟子は、ただ強いだけの化け物に遅れを取る未熟者なのかよ?』……そう言われたんだろう」
「如何にも。それとこうも言われたよ。『昔のアンタの方がよっぽどおっかなかったぜ。どれだけ力の差があっても、今のアンタには負ける気がしない』とな。……ふふ、今のは似ておらんかったか?」
「全然似てないな。アンタ、物真似の才能だけはなさそうだ」

 言いおるわ、とスカサハは愉快そうだった。
 魔女は二本の朱槍を手の中で旋回させ、その場で槍を振るう。さながら目の前にクー・フーリンがいるかのように。
 激しく虚像と戦う素振りを見せる。まるで舞踏だ。凄烈にして凄絶、極みの槍の連撃。都合十一閃、俺なら十回死んでるなと思い呆れてしまう。
 戯れめいたそれに、つくづく接近戦のマズさを痛感してしまった。キレ、迅さ、巧さ、自分とは比較にもならない。殺気の乗っていない槍でこれだ、ランサーの奴はこれより何倍も強い生前のスカサハを斃したのか。やはり大した奴だ。

「至福の瞬間だった。幾ら槍を振るっても斃れぬ愛弟子……それどころか次第に反撃されるようになり、私の体にも傷を負わせて来るようになった。私は信じられなかったが――同時に嬉しくて堪らなかったとも。この領域まで……私が二千年かけて至った境地にまで食らいついてくるかと。結末は知っての通り、『捻れ狂う光神の血』を発動したセタンタめに、儂もまた化生としての本性を顕して血戦に移った。そして――負けたよ。信じがたい事に、私よりも何倍も弱いはずのセタンタに。そこではじめて思い出した。『英雄は負けられない戦いには絶対に負けぬものだ』とな。だから英雄と呼ばれるのだと……そんな初歩的な在り方すら、あの時の私は忘却していた。翻るに私は『死にたがり』で、戦士としての心意気すら劣っていた。まさしく負けて当然だったという訳だ」

 敗れ、死んだ。本当の意味で英霊の座へと招かれたスカサハは、そうして本当の意味で魂を救われた。
 そこで漸く自らの所業を省みたのだ。そしてスカサハは思ったらしい。《割に合わぬ》と。
 私利私欲で人理を滅ぼす側に荷担するなど笑止千万である。誇り高く、気高い魂を取り戻したスカサハは誓った。人理を修復する戦いに於いて、必ずカルデアへ味方すると。贖罪ではない。自らにとって、それは過去の己との訣別である。

「故に私はお主に味方をするのだ。全面的に協力させてくれと、頭を下げて願おう。私の度しがたい愚行、それを灌ぎ、腐臭のする魔女と訣別するには必要な儀式なのだ
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