第一部
第二章 〜幽州戦記〜
十一 〜英傑、逝く〜
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この時代、誠に希有な存在よ」
「……はっ」
「勿論、朝廷には奏上するべく、既に手筈は整えてある。握りつぶされるやも知れぬが、これでお主が無断でやった事、という誹りは受けまいて」
「……丁原殿。拙者を買って下さる事、誠に光栄至極。なれど、拙者がそれをお受け致せば、并州は乱れましょう。大人しく、麾下の方々が従うとも思えませぬ」
「その事であれば、心配は無用ぞ。……ちと、荒っぽい手じゃが、急を要する事ゆえ、やむを得ぬ」
「丁原殿? 一体、何を?」
「……詳しき事は、この書に記しておいた。どうか、お頼み申す」
そう言って、丁原は私の手を握りしめた。
今際の際の老人の、何処にこのような力があるのか。
「……わかり申した。拙者で宜しければ」
「おおっ、有り難い……ゴホッ、ゴホッ!」
丁原は、激しく咳き込んだ。
抑えた手の隙間から、血が滲み出す。
「丁原おじ様!」
「……親父」
「……ああ、済まぬな。……さて、月。お前は、土方殿と共に行け。……土方殿を、父と思うが良い」
「……はい」
「そして、恋。今まで、よくワシを支えてくれた」
「……親父。まだ、死んじゃダメ」
いつもは無表情の恋の顔が、今ははっきりと変わっている。
「……ワシは、果報者じゃ。月や恋のような、愛しい娘がいて。……土方殿のような、申し分のない漢に出会えて」
丁原の眼が、閉じられていく。
「民を……たのむ……ぞ」
丁原の手が、急速に力を失った。
「丁原殿!」
「おじ様っ!」
「……親父。寝ちゃダメ、起きる。親父、起きる」
呂布が、丁原の身体を揺さぶる。
……勿論、丁原は何の反応も見せぬ。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!」
董卓の絶叫が、辺りに響き渡った……。
一刻後。
主立った者が、集められた。
「丁原殿が、身罷られた。まず、それを伝える」
私の隣には、泣き腫らした董卓と、呂布が立っている。
二人の悲しみはわからぬでもないが、今は戦場。
死者への哀悼の意は、改めて示すしかないのだ。
「月……」
「呂布も辛いやろな……」
皆の表情は、暗い。
「そして、丁原殿の遺言を預かっている。これを伝える」
竹簡を開き、広げた。
「まず、并州刺史の印綬は、この土方が預かる事と相成った。無論、正式な沙汰があった訳ではない、緊急措置として、だ」
「お兄さんが、ですか」
「ですが、妥当な選択ではある、と言えますね」
風と稟に頷いて見せてから、続けた。
「丁原殿の軍は、そのまま私が預かる事となる。呂布、そして陳宮もだ」
「……わかった」
「ねねは、恋殿と一蓮托生ですぞ。どこへでもお供するのです」
「
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