第三章
[8]前話
「だから消してはどうかと思うが」
「有り難きお言葉、ですがこれはです」
「刺青はか」
「私が兵であった証です」
まさにそれだとだ、狄青は皇帝に畏まって答えた。
「兵達はこれを見て自分達も励めばです」
「そなたの様にか」
「将にまでなれると思うので」
「だからか」
「あえて消しておりませぬ」
「そうしておるのか」
「左様であります」
まさにというのだ。
「その様に」
「ふむ、だから今も消さずにか」
「そのままにしています」
「そのことはわかった、ではこれからもか」
「願わくば刺青はです」
「そのままにしたいか」
「そうしたいのですが宜しいでしょうか」
狄青から皇帝に意見を述べた、居並ぶ廷臣達の中には皇帝の言葉に従わず逆に自分の意見を述べる彼にどうかと思う者もいて表情に出す者もいたが逆に流石兵から将にまでなった者だと内心呻る者もいた。
その廷臣達も居並ぶ中でだ、狄青は皇帝にさらに述べた。
「その様にして」
「ふむ、そうした理由か」
皇帝は狄青の言葉に頷きつつ述べた。
「ならよい、これからもだ」
「刺青はですか」
「そのままにしておくことだ」
彼が望む様にというのだ。
「そうせよ、よいか」
「有り難きお言葉、それでは」
「そなたの刺青また見せてもらおう」
皇帝は最後は笑みを浮かべてそのうえで狄青がそのまま刺青を入れたままにしておくことを認めた、こうして彼は終生刺青を入れたままにしていた。
その彼を見てだ、兵達は実際に自分達もと思った。
「将軍を見ろ、必ずだ」
「俺達も功を挙げれば身を立てられる」
「刺青を入れていても偉くなれるぞ」
「だから頑張るぞ」
刺青を額に入れていてもとだ、彼等も奮い立ってその職務に励んだ。
狄青は中国の長い歴史の中で一兵卒から軍の頂点にまで至った稀有な人物だ、その額には兵士の証であった刺青があったが彼は身を立ててからもそれを消すことはなかった。その為刺青が彼の代名詞となり当時身分は著しく低いものであった兵達の励みにもなった。中国宋代に伝わるある武人の逸話である。
刺青将軍 完
2018・12・13
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