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孤独な女人
第二章

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「ここまで来たとのことだ」
「そうですか」
「思えばな」
 どうかとだ、梅田は難しい顔で述べた。
「悲しいな」
「そうですね、若江薫子ですね」
「名前はな」 
 女の名がここで話された。
「そういうが」
「いい名だと思いますが」
「学者の家に生まれたとのことだな」
「はい、確か」
 酒を飲みつつだ、斎藤は応えた。二人で飲んでいるのだ。
「あの天神様の」
「血を引くというな」
「血も確かですね」
「都でもそちらで相当な家系と言われていた」
「その家の出で」
「幼くして四書五経をそらんじた」
 儒学の教典であるこういった書達をというのだ。
「清ならばおそろく男ならば」
「科挙にも及第していますね」
「そこまでの学問があり優れた学者の下で学び」
「岩垣月洲殿に」
「より磨かれてだ」 
 その学問がとだ、梅田も飲みつつ話す。二人共酒をどんどん飲んでいる。所謂薩摩隼人の飲み方だ。
「そうしてだ」
「皇后陛下のですね」
「教師になられた」
 当時一条左大臣の姫であったこの方にというのだ。
「そして優れた学問を教え」
「陛下のお后にもと」
「相談を受けて推挙された」
「まさに皇后様の恩師ですね」
「だからだ」
 それ故にというのだ。
「皇后様も今も気にかけておられるのだ」
「そういうことですね」
「それで我等もここにつかわれたのだ」
 それも仕事としてだ。
「そうなったのだ」
「そういうことですね」
「学問は優れ書道にも優れているが」
 しかしというのだ。
「背は小さく色黒、近視で藪睨みの目で常に引き攣った顔だ」
「それで、ですか」
「おなごの幸せには恵まれずな」
「攘夷にあまいにこだわり」
「遷都にも反対していたしな」
「随分頑固な女人ですね」
 斎藤もこう言うしかなかった。
「調べれば調べる程」
「全くだな」
「はい、随分学はありますが」
「しかしだ」
「世の流れにですか」
「ついていっていないのだ、気質もな」
「聞く限り随分一本気で」
 斎藤はどうかという顔で述べた。
「もっと言えば」
「一本気にも過ぎる」
「おい達もそうですが」
 酒が進んでいた、それで斎藤もつい薩摩の言葉を出してしまった。だがすぐに気付いて梅田に謝罪した。
「許しゃったもんせ」
「よか」
 梅田も酒の場なのでよしとした。
「今は」
「そうですか」
「そうだ、それでな」
「はい、家に使えていた婆様の世話をして」
「丸亀にいる」
 今はそこだというのだ。
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