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孤独な女人
第一章

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               孤独な女人
 その名を聞いてもだ、新米の警官斎藤彦作は怪訝な顔になった。それで上司である梅田義元に尋ねた。
「その老女のことをですか」
「そうだ、おまんさあにだ」
 梅田は薩摩弁が残っている言葉で斎藤に言った、見事な口髭を伸ばしていて厳めしい顔が警官の制服に似合っている、背は斎藤の方が高いが体格は彼の方がいい。
「見てもらいたいのだ」
「そうですか、しかし」
「名前を聞いたことはないか」
「はい」
 斎藤はその面長で色黒の細い目を持つ顔で答えた、彼も言葉には薩摩の訛りがある。
「そう言われても」
「そうか、実はおいどんもな」
 かく言う梅田自身もというのだ。
「その女人のことは知らん」
「警部もですか」
「何でもあれだ」
 席に座る自分の前に立つ斎藤に話した。
「幕末に色々とな」
「言っていたのですか」
「そうしたおなごだったらしい」
「そうなのですか」
「その若江薫子というおなごはな、しかもだ」
 その女のことをだ、梅田はさらに話した。
「皇后様がまだ陛下に嫁がれる前に教師であったらしい」
「教師ですか」
「そうだったらしい」
「その様な方ですか」
 斎藤は皇后陛下の教師だったと聞いて思わず敬意を言葉に出した。
「それはまた」
「そうだ、しかし今はな」
「四国のある場所において」
「落魄しているとのことだが」
 しかしと言うのだった。
「皇后様が今も気にかけておられてだ」
「それで、ですか」
「今どの様にされているかお知りになりたいとのことでだ」
「本官にですね」
「命が下った、おいも行く」
 梅田もというのだ。
「四国にな」
「それでは」
「今から行くぞ」
 二人が今いる東京からというのだ。
「いいな」
「わかりもっそ」
 斎藤は梅田に敬礼で応えた、そしてだった。
 二人は四国に行く用意を整えそうしてだった。
 四国に向かいそこに入った、ここで斎藤は梅田に言った。
「都落ちをして」
「そうしてだな」
「ここまで来るとは」
「相当なことがあったな」
「そうかと」
 まさにというのだ。
「私もそう思いました」
「おいもだ」
 梅田もと言うのだった。
「皇后様の教師であられたのにな」
「ここまで落魄するとは」
「何でもだ」
 梅田は四国に入ったその宿で斎藤に話した。
「攘夷派であったらしい」
「尊王攘夷ですね」
「それはよかったが」
「何かあったのですか」
「攘夷が強過ぎた」
 その気持ちがというのだ。
「それでだ、何かと意見をしてだ」
「それで、ですか」
「今のおかみにも疎まれてな、世渡りも下手だったそうで」
「その結果ですか」
「都を去ることになり」
 そうしてというのだ。
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