禁句に気をつけろジャックさん!
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も浮かばなかったので、ミレイ――俺にジャックという仮の名をつけてくれた少女から連想した。
俺はトランプのダイヤのジャックから名を持って来られた。それはヘクトールが由来である。折角だから彼の英雄の奥方から名をもらう事にする。
「お前の名を考えてみた。アンドロマケだ。『男の戦い』という意味がある。どうだ?」
言葉が通じるとは思っていない。しかしなんとなく受け入れてくれた気がする。その背に飛び乗ると、沖田に手を伸ばす。相乗りで帰った方がいい、そう思っての事だが――沖田はその手を取らず、腰を落とすと刀の鯉口を切る。戦闘体勢……うんざりした。
「――彼の『兜輝くヘクトール』の妻の名か。ふん、殺り辛い名をつけたものだな」
ずっと。あれから、ずっとなのだろう。
森の出口で、待ち構えていた女王が姿を現す。
俺達の背後からだ。
日の光を弾く銀の髪。幼いものでありながら、目を瞠くに値する端整な美貌。獣のように引き締まった肢体には軍神の系譜に相応しい力強さが宿っている。
沖田が即座に斬りかかろうとするのを止めた。俺は馬上で手綱を握りながら肩を竦める。
「此処で待ち構えていれば必ず来ると思っていたぞ、英雄」
「……過分な評価だ。俺はアマゾネスの女王に、英雄などと称されるに足る男ではないよ」
皮肉げに返すと、ペンテシレイアはぴくりと眉を動かした。
「謙遜も過ぎれば無礼だぞ、隻眼の。それに、私は貴様に名乗った覚えはないが……」
「見れば分かる。軍神の暴威を宿す女戦士など、アマゾネスぐらいなものだ。それに加えてそうも荒々しい力を振るうとなれば、ヒッポリュテ女王ではなくお前の名しか浮かばない」
「なるほど……確かにそうだ。姉上は堅実な武を好む。流石の分析力だと讃えてやろう。真のアマゾネスの女王の座は、姉上にこそ相応しかった……思えば私は、姉にとっては不出来な妹だったろう……」
何が可笑しいのか、クツクツと笑うペンテシレイアに、俺はどうするかと考えてみる。
この場で戦いたくはない。俺は疲れているのだ。早く飯を食って寝たいのである。沖田と掛かれば倒せるかもしれないが、沖田は既知の通りリスクを常に抱えている。奇襲は姿を見られている時点で成らず、正面から掛かって速攻で倒せる手合いではあるまい。
戦いが長引けば、ケルト戦士達が来る。戦うのは不利なのだ。いや、こうして話しているだけで、ケルト戦士達は集結してくるだろう。ペンテシレイアの声はよく徹る。
「で、どうする。戦るのか?」
「無論だ。逃がす道理があると思うか? こうして悠長に言葉を交わしてやっているのは、私が貴様に訊かねばならんものがあるからだ」
「なんだ」
「名を教えろ。貴様は一度この私に勝ったのだ。ならば雪辱を晴らす前に、その名を
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