欠ける無限、禁忌の術
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――その遭遇は偶然などではない。
親指を噛んでいた。
総軍で見れば誤差の範囲だが、自国の戦士達が次々と消息を絶ったのだ。彼の仕える王の片割れが、その地点を地図で指し示し。親指を噛めと命じられたフィン・マックールはその情報のみで下手人の移動進路を掌握したのである。
そして其処へいるかもしれない抵抗者に、接近をギリギリまで感知されない為の道を通りその背後を取ったのである。
しかし予想外の事態があった。単独、ないしは徒党を組んだサーヴァントによる仕業だと思っていたら、発見したのは普通の人間の群れだったのだ。前方には鏖殺の難を逃れ、今尚生きようと足掻く無辜の民草がいる。そしてそれを守る一団が整然と、規律を保って行軍していた。フィンは嘆く。この時ばかりは知恵に長ける我が身を呪いたくもなった。
道理で追い付くのが想定よりも早かったはずである。あんな遅々とした進行では、容易に追い付けてしまって当然だった。
「……見つけてしまったか」
苦渋と共に白馬を駆る騎士団の長は呟く。
本来なら騎士として守るべき人々を、この手に掛ける事へ忸怩たる思いがある。だがそれも今更だ。
唾棄すべき暴虐に荷担してしまっている以上、彼に慚愧の念を抱く資格すらない。この手は罪深い血に汚れ、我が身は取り返しがつかない程に、どうしようもなく邪悪なのだ。
ケルト神話最大にして最強、光の御子クー・フーリン。変質した暴虐の武王こそが、フィオナ騎士団が長フィン・マックールの今生での主である。そして彼の大英雄を変質させた元凶、コノートの女王メイヴこそが、実質的な方針を打ち立てる頭脳だ。
本来ならば、不忠の謗りを受けようとも、人理に仇成す両名に槍を向けるべきである。しかしそれは出来なかった。聖杯による強制召喚、命令の強制執行、英霊として召喚者に立てるべき忠節と義務。己の意思に関わりなく、従わされているのがフィン・マックールや他のサーヴァントだ。
だがそれ以上に――フィンには畏怖があった。拭い難い怯えがあった。それは生前の青年期、フィンの全盛期である時代で起こった出来事が原因である。彼はあの時、光の御子クー・フーリンに襲われてしまったのだ。
遥か昔に死んでいるはずのクー・フーリンは、あっさりと気軽に死後の世界より抜け出してフィンの許へ現れた。彼は当代一の英雄と名高い、後追いの騎士の力量を興味本意に図りに来ただけなのだろう。しかしフィンにとってそれは恐怖以外の何物でもなかった。
勝てる勝てないの話ではない。単純に強いだけならフィンは恐怖する事があっても無様を晒しはしなかっただろう。だがアレは違う。祖に戦神ヌアザを持つフィンですら――邪悪な妖精に零落した、堕ちた神霊アレーンを屠ったフ
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