士郎くんは一人のために、士郎くんは皆のために
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」
「分かった。中に二人いる。小柄な連中を五人乗せてやれ」
言って、馬車から真ん中の黒馬を放した。
轡と鐙を投影して掛ける。馬の首筋を軽く撫でて跨がった。……何年も馬に乗っていなかったが意外となんとかなる。ルヴィアには今度、感謝しないとな……と士郎は一人ごちた。
人に慣れた馬だ。よく鍛えられている。かなりの距離を走っているだろうに、まだ余力があるようだった。労りながら手綱を操り、集団の先頭に戻ると士郎は声を張り上げる。
「出発だ!」
上体を倒して黒馬の首にしがみつき、水筒の上半分を割って、それを馬の口に近づける。頭がいいのだろう。理解したのか小さく口を開けた黒馬に水を飲ませてやった。
水筒を捨てる。どうせ投影品だ、消えるだけだが――返す返すも思う。己に投影魔術が……正確には固有結界だが、その力があってよかったと。極めて便利で、汎用性が高い。この力がなければとっくの昔に死んでいた。
自分の後ろに沖田を乗せる。沖田はサーヴァントだ、騎乗スキルは最低ランクだが、相乗り程度は問題ない。「なんか、すっごく恥ずかしいんですけど……?」沖田の文句は無視した。士郎としては体を密着させるおんぶよりも、こちらの方がずっと精神的には平和なのだ。
時折り馬車の方に近づき、イーサンに声をかける。ツレの様子はどうだと。大丈夫なようです、と初対面時とは打って変わってしおらしく、大人しい声で応答があった。どうやら彼も落ち着いたらしい。ひどく申し訳なさそうだ。
それから八時間、休憩を挟みながら只管歩く。陽が昇り、中天に差し掛かる。疲労が早くも滲み始めた彼らを見渡し激励した。
「もう少し頑張れ。あと1q歩けば河がある。そこで一時間の休憩を取る。飯にしよう」
最後の力、というわけでもないが。飯という言葉に釣られて奮起する群衆を護衛する。
やがて河まで来る。進行方向に横たわる河だ。橋を渡らねば対岸には進めない。しかし橋は落とされていたが、特に問題ないと士郎は言う。例の巨大な剣を橋の代わりに足場に出来るのだ。
兵士達が食糧を回す。貧相なものだが、不満は出なかった。私語も許され、思っていたよりも和やかに食事が始まる。士郎は意外に思うが、この時代の民衆は士郎の想像よりも強かだったというだけの事だろう。
士郎は黒馬から降り、河の水を飲む彼――いや彼女か。牝馬の首を撫でてやる。鬣を整え、脚の手入れも不馴れながらもなんとか不快に思わせずにおこなった。体を水で濡らした手拭いで拭いてやる。見ればカーターは手慣れた所作で二頭の馬の世話をしてやっていた。
ふと思い付いたかのように、士郎は赤い布を投影する。丁度手拭いのようなものを、321枚。
それを手近の兵士数名に渡した。
「全員に配れ。一人一枚だ。体の何処かに括り
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