いつかの面影
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、少なくともいま目に映っている、少し眦まなじりと眉を落としたタバサの表情を見る限りでは、俺の耳がおかしくなったわけではなさそうだ。
「それって……」
どういうことだ、とは続けることは出来なかった。
言葉の途中でタバサは立ち上がり、「なんでもない」と呟いて、ドアをくぐってしまったから。
「おやすみなさい」
すれ違いざまに、そう言い残して。
俺はそれからしばらくの間、そのまま呆然と立ち尽くしていた……らしい。
くしゃみをして正気にもどった頃には、蒼い月が既に地平の山に半分ほど沈んでしまっていた。
体なんてめっきり冷え切っちまっている。
これ以上冷やすと本格的に風邪を引いちまいそうだ。
ブルリと身を震わせた俺は、ルイズの部屋へと早々に戻ることにした。
一歩を下がってドアを閉めるまでの一瞬、隙間から見えた眩い夜空と朱い三日月が、なんだか寂しげに映った。
さっきの言葉はどういうことだろうか。それに、あの表情は……。
才人は部屋へと戻る道すがら、そればかりが気になっていた。
タバサのあんな寂しげな声を聞いたのは、これが初めてだった。
無論、眩しいものをみるような表情も。
正直言って、当分は瞼の裏から消えそうになかった。
まあ、俺の感想はどうでもいい。
タバサの台詞の前後を追ってみると、俺の居た場所に貴族がいないことが羨ましい、というような意味合いになるわけなんだけど。
これって、いったいどういうことだ?
タバサは、貴族が嫌いなんだろうか?
……なんとなく思い当たる節はあるけど、そんな単純な理由だったら魔法学院こんなところにゃ居ないか。
じゃあ、貴族になんかされたことがあるとか?
……これまたなんとなく予想がつくけど、それだってそのバカ個人を嫌えば充分だろう。貴族全体を嫌になるようなことにはならねえか。
というか、なんかニュアンスが違う気がする。
本当に貴族が嫌いなんだかどうかすら憶測だし、そもそも俺はタバサのことはよく知らない。
俺が知ってるのは、何度も命を助けてくれた恩人ってことと、あと、根が優しい奴だってことぐらいか。
……そういう奴が、誰か個人のことでそのグループ全体を恨んだりするとは思えねえんだけど。
だったら、羨ましいっていうのはいったい……、あれ?
今、なんか頭ん中で引っかかったよ「ぶぐはッ!?」
才人は、考え事に夢中になるあまり、うっかり
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